慶應義塾大学と東京歯科大学の合併に向けて協議を始めた。合併が順調に進めば、2023年4月にも「慶應義塾大学歯学部」が誕生するという。少子化と新型コロナウイルス禍で大学の経営環境は激変し、こうした連携・統合の動きは他大学に波及し、大学の生き残り策が模索されていく可能性がある。今回の慶應義塾大と東京歯科大学の統合を医師はどう見たのか。現在、連載中の「フリーランス女医が鋭く分析『医者の働き方、稼ぎ方』」の著者の筒井冨美氏が緊急レポートする。

順天堂・慈恵・日本医大にあって、慶應にないもの

東京都でブランド力のある私立医大付属病院といえば順天堂大学・東京慈恵会医科大学・日本医科大学などが挙げられるが、順天堂大は東京都文京区の本院の他に、都内に2カ所・埼玉・千葉・静岡に各1カ所の分院を有している。慈恵医大は都内3カ所・千葉1カ所、日本医大は都内・神奈川・千葉に各1カ所の分院が存在する。一方、慶應大は東京都新宿区の慶應病院のみが附属病院である。

 

筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)
筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)

昨今の私立医大の運営を考える上で、本院のみならず分院を設けて医療不足地域にチェーン展開することで収益を上げることは重要な経営戦略である。また、大学病院が1つならば「眼科主任教授」のポストは1つとなり、「凄腕医師なのに同期が教授になったら泣く泣く外部の病院に転職」となりがちだが、複数の附属病院があると「分院で教授ポストを斡旋」のような人事戦略も可能になる。

 

また、2018年度から新専門医制度が開始された。医師国家試験合格後に2年間の総合研修を受けた若手医師は、「内科」「眼科」「精神科」などの専攻コースを選んで3~5年間の専門研修を受けることになる。また、この制度は「医師偏在の解消」を目的の1つにしており、「東京都内での専門研修」については「○×医大付属病院の眼科新規採用は最大5名まで」などと厳しいシーリング(定員上限)が定められるようになった。

 

そこで東京都外に分院を持つ大学病院は、シーリングに漏れた研修希望者を千葉県などの分院で採用することで新規採用者数を確保するようになったが、東京都内しか附属病院のない大学病院は新人採用に大苦戦するようになった。

千葉県市川市に第二慶應病院誕生でV字回復なるか

東京歯科大は歯科大としては珍しく、東京歯科大学市川総合病院という心臓外科や産科なども含んだ総合病院を千葉県市川市に所有している。同病院は勤務医は慶應卒医師が多く、慶應義塾大学関連病院会にも名を連ねている。今回の合併案は、この市川総合病院の関係者が縁を取り持った可能性も高い。

 

2023年度から東京歯科大学市川総合病院は慶應病院の分院となると思われる。市川総合病院の部長クラスの医師たちは今のところ「東京歯科大×○科教授」などという肩書を与えられているが、これはそのまま「慶應大教授」に更新されるだろう。「慶應大教授」の肩書ならば有能医師のスカウトも容易になるし、スター医師を招聘できれば若手医師も自然に集まるだろう。千葉県市川市ならば交通の便は東京23区に準じるが、専攻医シーリングとしては千葉県扱いなので採用上限数は厳しくない。

 

今回の合併で慶應大に変革をもたらすのは、歯学部そのものよりも市川総合病院改め“第二慶應病院”なのかもしれない。

 

筒井冨美
フリーランス医師

 

 

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