「経営論」や「正論」なんて、ほとんど役に立たない
筆者は常々、大企業の経営“論“や、大経営者の正“論“は、中小企業の経営にはほとんど役に立たないと思っています。ただし、過去の“事実“は別です。ひとつの企業が、経営上のどんな課題にあたり、それをどんな発想で乗り越えたかという現実の歴史からは、企業規模にかかわらず、共通して学べることがあります。
社会環境というのは、常にダイナミックに変化しています。それに対応していかねば、大企業であっても破たんが待っています。今の事業が、「もはや時代に合っていない」とうすうす感じている経営者もいるかもしれません。その感覚にふたをしてしまえば、もはやそれまで。その事業と心中していくことになります。たとえ創業事業であっても、時世に合わなくなったと感じたら潔く撤退し、新たな事業を展開しなければいけません。
わかりやすい例を挙げましょう。時代の残酷さから目を背けることなく、現実をしっかり受け入れて対応した企業があります。それは、富士フイルムです。
富士フイルムはもともと日本トップのフィルムメーカーであり、フィルム事業のピークであった2000年度においては、全体の利益の20%を、フィルム事業が担っていました。また、フィルムが売れれば、撮影した写真をプリントするための現像液や印画紙の売り上げも伸びていきます。売り上げの70%近くは、フィルムとその関連事業で占められていました。富士フイルムにとってのフィルムは、ホンダでいえば車、JRなら鉄道にあたるほどの、根幹事業だったのです。
ところが、デジタルカメラの登場により、世界は一変しました。利便性においても、将来の可能性においても、フィルムよりも明らかに優れた次世代技術の登場で、フィルム市場は遅かれ早かれ縮小を余儀なくされるのは間違いない状況でした。それが見えていたとしても、自社の根幹を成している創業事業をたたむというのは、大きな決断です。
大企業ほど、方向転換が難しいものですが、富士フイルムでは、いち早く事業の転換を決定。フィルム開発の過程で身についたナノテクノロジーの技術を化粧品開発に用いるなど、過去に培ってきた技術を、医療分野や化粧品開発といったまったく違う領域に転用した結果、華麗なる転身を果たしたのです。
大企業でもそれができるのですから、よりフットワークの軽い中小企業にできないはずはありません。経営者の「鶴の一声」で、新たな船出をするのはいつでも可能です。これまでの常識にとらわれず、未来を冷静に見つめて、必要ならどんどん新規事業を手掛け、会社を改革し続けるのが、今後の中小企業の経営者の、あるべき姿だと筆者は考えています。
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