「俺が死んだ後のことなんか知らんわい」が悲劇を生む
日本の家庭では、子供にお金にまつわる話をする機会が少ないように思います。家の財産や税金のことなどは大人が考えるべきものだとされ、何もわからないまま過ごしてきた方も数多くいることでしょう。
親族が亡くなると、役所や金融機関などでいろいろな手続きをしなくてはいけません。お葬式をしたり故人のものを整理したりするとわかるのですが、意外にいろいろとお金がかかるものです。葬儀代や香典返しだけではありません。葬儀に来てくれた親族への車代や戒名をつけていただくお寺への費用など、亡くなって初めてわかることは本当に多いのです。
そんな初めてのことに加え、亡くなった人がどれだけの財産を遺していたかなど、知るわけもありません。
その時に誰しもが思うのは、「故人が財産のリストを作ってくれていたらよかったのに」ということです。そして「そのリストがあれば、親族で処分を話し合って遺産分割協議書が作れたのに」と、きっと思うはずです。
故人が誰に何を遺すと明示した遺言書を作っていてくれたらいいのですが、相続人に恨まれることを避けたいのか、病気が重くてそんなことをしている余裕がないのか、自分が亡くなる話をしたくないのか――、遺言書など作りたくないという方が結構いるのです。
「俺が死んだ後のことなんか知らんわい」その気持ちもわからなくはありません。しかし遺言書がないと、相続にあたり、相続人が皆で協議して財産の分け方を決めなくてはいけません。それが遺産分割協議書です。
相続人は故人の財産リストを作った後に遺産分割協議書を作ることになるのですが、実は作成にはかなりの労力を費やすことになるのです。「そんな時のために税理士さんがいるんじゃないか」と思われるかもしれません。ところが、いくら税務に長けた税理士だったとしても机上の計算だけでは済まされないのが、遺産分割協議の難しいところです。税理士としての業務に加え、人として相続人の方々の心の機微を理解し、様々な対応を要求されることがあるからです。
とあるお客様の相続時の話です。ある日、相続人の一人であるご長男が事務所に来られました。ご長男は家督を継がれることを意識してなのか、財産分割の方向性をあたかも自分が決めるかのようにお話しになっていました。