チューバが教えてくれた“働く環境”の真の姿
「縁の下の力持ち」を強く意識しているのは、吹奏楽部やオーケストラで私がチューバというマニアックな楽器を吹いているという特殊性にあるとも私自身分析しています。低音パートを司るチューバは、特に吹奏楽ではどんな曲においても一切メロディーラインを担当することがないのです。年がら年中、ベースラインとしてメロディーライン引き立てる伴奏担当で、スポットライトが当たることは全くもってありません。
このように、常に裏方に徹せざるを得なかった環境にずっと身を置いていたことが、裏方の仕事にどうしても目がいってしまう、独自の(偏屈な)着眼点創造につながってきたことは否定できません。
しかし、音楽を知れば知るほど「奏でる時に生まれる美しさは、メロディーラインとベースラインである最上部と最下部の2つ音で決まる」という結論に達していくのではないかと感じます。実際に、多くのプロの演奏家や指揮者の方々も同じことを口にしています。
メロディーラインだけではどうしても重厚感に欠け、チューバのような楽器が重低音をきっちり安定させることによって、絶妙なハーモニーが生み出されます。
医療現場も、音楽のハーモニーに似たところがあると、考えることができるのではないでしょうか。前面に立ってメロディーラインを奏でるような立ち回りの人もいれば、それを下から支えているチューバ奏者のようなベースラインの立ち位置の人も必ず必要です。
ファーストバイオリンのように華やかなメロディーラインを担当しているのは、まさしく医師たち。その医師が伸び伸びと活躍できる環境でなくては、良い医療は成立しません。
とは言っても、医師だけは病院は運営できません。もし医師だけで運営することになったら、診察室や病室の掃除から、病院食作り、会計のレジ打ち、レセプトの書類管理までもすべて自らの手で行うことになってしまいます。
だからこそ、「縁の下の力持ち」で働いてくれているさまざまな職種の方々も気持ちよく仕事ができて、気付いたことを医師や経営者に躊躇することなくフィードバックしてくれる環境を整えておくことが非常に重要なのです。彼らの支え無くしては、医師が日々伸び伸びと活躍できる環境は存在しないのですから。
私自身、医師以外の色々な職種の方と気軽に会話をする機会を常々持つようにしていましたし、時には一緒に飲みに行くこともありました。そうした時間の中で、医師では到底気づけないような問題点や解決策を、彼ら彼女たちが持っていることに何度も気づかされてきました。
●タスクシフトなくして、「医師の働き方改革」が成し遂げられないことを再認識する
●タスクシフトを決めたら、コメディカルスタッフには医師自身が納得できるところまで“教え切る”
●多方面から情報収集するためにも事務職など「縁の下の力持ち」の声を聴く
佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表