一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。
タスクシフトの前に、まずは「業務の棚卸」を
着任早々始めたヒアリングには、「医局員の業務の中に必ずしも医師がする必要のない仕事も数多くあり、他職種へのタスクシフト可能な業務が混在している」という意見も少なからずありました。それを聞いて、私自身は業務を整理して、医師の仕事を軽減していく必要性を強く感じました(第5回参照)。
ただ、医局員からコメディカルスタッフへタスク・シフティングをしていくその前に、コメディカルスタッフ自身の業務についてヒアリングを行い、それを踏まえて医局員が抱えているどの業務をどのようにシフトしていくか、具体的に検討しなければなりません。このため、糖尿病内科の運営にかかわるすべての職種のスタッフに、時間をかけて話を聞き業務の棚卸を行っていきました。
「業務の棚卸」は多くの企業で毎年当たり前のこととして行われている作業です。各部署で誰がどんな業務を担当し、作業負荷がどの程度生じているのかを客観的なデータで把握し、それをもとに具体的な改善を行ったりします。
参考までに、たとえば糖尿病内科での「業務の棚卸」の一例をお示しします(表)。
私自身が静岡病院に赴任するまでは、本院で「糖尿病教育入院」担当のグループ長をしていたこともあり、赴任後、新たにスタートさせた取り組みの1つに「糖尿病支援入院」があります(第6回参照)。本院では「糖尿病教育入院」と呼んでいましたが、以前より「教育」という言葉が、「相応しくない」といった意見がありましたので、我々の「患者さんを支援したい」という思いも込めて、思い切って静岡病院では「糖尿病支援入院」と名称を変えることにしました。
立ち上げの詳細についてはすでに述べましたので、ここでは、タスクシフトをどう実践していったかをお話することにします。
Basical Health産業医事務所
代表
日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本肥満学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医などの資格をもつ内科医・産業医。
1998年順天堂大学医学部卒業後、順天堂大学 代謝内分泌学 助教などを経て、2012年41歳の若さで順天堂大学附属静岡病院 糖尿病・内分泌内科 科長(兼 准教授)に就任。同院で、「地方病院の医局員たちの残業の多さを何とか改善できないか」と考え、「医師の働き方改革」に着手。コーチングの手法を活用し、現場の要望を聴き出し、それを反映させた組織開発を独自で行う。3年目には医局員全員が定時に帰宅できる体制を作りあげる。その後、日本IBM株式会社で専属産業医を2年弱務めた後、2018年に独立。現在、健康保険組合やその関連企業での健康増進・予防医療などのコンサルタント業務を行いながら、糖尿病の外来診療、嘱託産業医としても活動する。今年度より、厚生労働省医政局委託事業「医療従事者勤務環境改善のための助言及び調査業務」委員会の委員に就任するなど、日本中の医師が安定的に働き続けられる環境作りに取り掛かっている。趣味は音楽。高校3年生時には、全日本吹奏楽コンクール(普門館)にて金賞受賞。担当楽器はチューバ。
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連載「医師の働き方改革」仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる