一審判決の「誤り」
本件の日記の記載をみると、一審判決で認定されたとおり、記載の外形上確かに、「2016」の記載があとから「加筆」されたものであることは否定できない状況でした。
しかし遺言者である亡き父が、年月日の「年」の記載を失念してあとから加筆したことは、明らかな誤記の訂正と異なるところはないといえます。なぜなら、「年」の記載を失念してあとから加筆した日記において、民法所定の方式の違反があったとしても遺言の本文には何らの変更もないため遺言者の意思を確認するについて支障がないからです。
また、自筆証書遺言は年月日が特定されている必要があるところ、年月日の「年」の記載がないということは遺言書が未完成の作成過程であり、遺言者である亡き父が「2016」という「年」の記載をすることではじめて、日記は、自筆証書遺言として有効に成立したものとみることもできました。
すなわち、日記における「2016」の記載はいったん有効に成立した遺言書に変更を加えたものではなく、むしろ、遺言者である亡き父が「2016」の記載をすることではじめて自筆証書遺言として有効に成立したものであって、いったん有効に成立した遺言書に変更を加える場合の規定である民法968条3項の「加除その他の変更」には該当しないと考えられました。
こうしたことから、遺言者である亡き父が年月日の「年」の記載をあとから加筆したことが明らかな誤記の訂正であるとみることができるか否かを問わず、争点に関し、本件の日記の記載について、「2016」との記載は「加筆」にあたるとしたうえで、民法968条3項を適用して日付の記載を欠くものとして無効とした一審判決は、民法968条3項の解釈・適用を誤ったものであると厳しく指摘しました。
結果、控訴審で逆転勝訴した兄
しかも、この日記の記載は、家庭裁判所の検認手続を経たうえで遺言執行者選任の審判がなされ、相続財産であるところの全ての不動産について「遺贈」を登記原因とする所有権移転登記が完了していました。つまり、裁判所及び法務局という公的機関において、この日記の記載は有効な遺言として扱われていたのです。
私が一審判決の誤りを厳しく指摘した結果、高裁では当方の主張を認め、亡き父の日記の記載は自筆証書遺言として有効であるとの判断のもと、和解による解決を勧められ、最終的には当方の勝訴的和解が成立しました。
本件では、遺言の有効・無効に関する多くの裁判例や文献を徹底的に調査し、緻密な理論構成を駆使して粘り強く主張を展開したことが控訴審での逆転勝訴という結果につながったと考えています。
<教訓>
一審で敗訴したとしても諦めずに多くの裁判例や文献を徹底的に調査し、緻密な理論構成を駆使して粘り強く主張を展開すべし。
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