「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

作戦成功で一句「不穏時は、安定剤よりビールだね」

怒りん坊星人にはビールを!

 

最近、本人も前とは何か違うぞ! と思っているようで、少々混乱ぎみなのか、ちょっとしたことで怒り出す、怒りん坊星人に変身する。

 

昨晩は「俺はさっこ(私の母)を殺して、俺も自害する」と急に怒り出し、途中から「殺せ~」と大声を出す始末。ご近所様が驚くといけないので、急いで雨戸を閉めてみた。

 

「まあまあ、ビールでも飲んで、何があったのか話を聞かせて」と言ってビールを差し出すと……。(※写真はイメージです/PIXTA)
「まあまあ、ビールでも飲んで、何があったのか話を聞かせて」と言ってビールを差し出すと……。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「ふむふむ、じーじは、冷静な思考や行動を司る前頭葉が萎縮しているんだな」なんて冷静に考えている場合ではない。ますます大きな声で、自害するだの、殺せだの大騒ぎ。

 

理由を聞いても私にはまったく何を言っているのかわからないが、とりあえず共感だよ、共感! と本に書いてあるとおりに「そうなんだね。それは大変だったね」と言ってみるものの、ますます興奮するばかり。

 

精神安定剤はないし、どうしようかと途方に暮れていたその時。

 

……ピカッとひらめいた!

 

「そうだビールを飲ませて、寝かせてしまえ!」

 

じーじは、根っからの呑んべぇ。とくにビールは大好物。最近めっきり弱くなったので、たいがい350ml1本飲むと眠くなる。

 

「まあまあ、ビールでも飲んで、何があったのか話を聞かせて」と言ってビールを差し出すと、「お! ビールか、喉が渇いていたからな」と、すんなりビールを飲むじーじ。

あれだけデカい声出していたらそりゃあ喉も乾くでしょうと思いつつ、まずは、作戦成功。

 

話を聞くと、「いくら注意をしても部下の態度がよくならない」とか「部長の指示が悪い」などと言うじーじ。「部下?」「部長?」どうやらじーじは、デイサービスを会社だと思っているらしい。

 

何か気に入らないことがあったようで、かなりのお怒りモードでいろいろ話すものの、どうして「自害する」になってしまうのか原因はわからずじまいだった。そのうち気分も落ち着き、1時間後には地球人のじーじに戻り、ほろ酔い気分でご就寝。

 

やった~! 作戦成功。そこで一句。

 

不穏時は、安定剤よりビールだね

 

翌朝何事もなかったようにご機嫌でデイサービスにご出勤(わが家ではデイサービスに行くことを出勤と呼んでいる)。


  
不穏
医療や介護で使われる言葉。穏やかな状態でないこと、あるいは興奮することが予測できる状態にあること。

 

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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