一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

コメディカルの存在や発言への「承認」からスタート

糖尿病内科は、まさしくチーム医療で運営されています。フットケアを含めさまざまな糖尿病患者さんのケアを中心になって担う病棟・外来看護師や、服薬状態などを把握してインスリン指導などを行う薬剤師、栄養指導をする管理栄養士らの協力があってこそ、患者さんの糖尿病に対するリテラシーがどんどん高まっていくのです。

 

しかしながら、医学生の時に来て以来静岡病院と接点のなかった私は、着任当時にコメディカルの知り合いが全くいませんでした。そんななかで、医局員に行っていたような15~20分程度の1 on 1(第4回参照)の面接を定期的にコメディカルスタッフとするのは、あまり現実的ではなかったので、まずは「気軽に話ができる関係」「本音を引き出せる関係」を作ることに徹しました。

 

できるだけ多くのスタッフとのコミュニケーションをもつ機会を増やしたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
できるだけ多くのスタッフとのコミュニケーションをもつ機会を増やしたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

コメディカルスタッフのなかには、自分から医師に話しかけるのは「失礼ではないか」と身構えてしまう人もいるため、最初は意見を聴くのも簡単でないスタッフもいました。このため、廊下ですれ違った時などちょっとしたタイミングにこちらから話しかけるようにして、コミュニケーション量を徐々に増やしていったのです。

 

さらに私が進行役を務め、毎週実施していた糖尿病支援入院している患者さんの病状についての「多職種合同カンファレンス」では、コメディカルスタッフの意見を積極的に聴いていきました。承認する気持ちを態度で示しながら、参加者が話しやすい雰囲気・環境をつくることを徹底的に心掛けました。

 

ちなみに「承認」とは、その言葉の通り相手の存在や発言を“認める”ことです。コーチング時の大前提は、「相手の存在そのものを承認する」こと。コメディカルスタッフにとって、医師からきちんと認められていると感じることが、チーム医療を行っていく上で最も大切な要素になると考えました。

 

この他にも、医局員との飲み会にコメディカルも遠慮なく参加してもらい、できるだけ多くのスタッフとのコミュニケーションをもつ機会を増やしていきました。こういったなかで「遠慮せずに話をしても大丈夫だ」という「心理的安全性」を実感してもらおうとしたのです。

 

質問するにしても、二者択一は避け、自由に考えを聞けるオープンクエスチョンを多く用いました。こういったコーチングの手法を織り交ぜながら、極力スタッフ全員の意見を拾い上げていくことに注力していくことになります。

 

※コーチングで最も大切にされているのが、「傾聴→質問→フィードバック→傾聴」のサイクルを、クライアントを承認しながら、回していくこと。

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