手術前に計画したとおりの視力にならないワケ
白内障手術における患者さんの満足度の高さは、術後に患者さんが期待したとおりの見え方を実現できているかどうかにあります。
単に患者さん個々の治療にかける時間を長くして〝丁寧さ〟を追求しても、術後に満足してもらえる結果が得られるわけではありません。少なくとも治療する側は、客観的な数値に表れる向上の成果を見て「患者さんが満足された理由はここにある」と確かな手応えを感じるのです。
具体的な例として、「屈折誤差」の話をしましょう。読者の皆さんは、眼科医のホームページや取材記事のコメントなどのなかで、
「白内障手術に誤差はつきもの」
「多少の誤差が生じるのは不可抗力なので致し方ない」
といった言葉を見かけたことはないでしょうか。この「誤差」は、正しくは「屈折誤差」を短縮した言葉であり、発言の内容は「術前に計画したとおりの視力にならないことは、白内障手術ではままある」ということを意味します。
では、計画どおりの視力にならなかったとき、どんな不都合が起こり得るのでしょうか。
「スマートフォンの文字をはっきり読みたい」と希望したのにぼやけて見えたり、反対に「遠くの景色をきれいに見たい」と思ったのにおぼろげになったりすることがあります。場合によっては「眼鏡はいらなくなりますよ」と聞いていたのに、実際には眼鏡をかけなければならない状況が日常生活に多く出てくるようになることもあります。
「本当に多少の屈折誤差は仕方がないか」というと、筆者は「〝多少〟にも限度がある」と考えています。1.0の視力が0.9~0.8になる程度なら、患者さん自身の眼の見え方には実感を伴う場面が少ないかもしれませんが、0.6ともなれば見え方に歴然とした違いが生じます。
そして、患者さんが自覚せざるを得ないような大幅な屈折誤差は、精密で丁寧な検査を行えば防ぐことができます。ちなみに筆者のクリニックでは、術後の屈折誤差±0.25D以内の患者さんが80%、±.5D以内の患者さんが97.5%を占めていますが、残念ながら、100%とするのは難しいのが現状です。しかし、一般的には屈折誤差±0.5D以内の患者さんの割合は70%といわれているので、それよりは高い割合であることがお分かりいただけるかと思います。