手術を決意した次のステップは、医療機関の選択だが…
白内障を患い、それがすでに手術治療が必要な程度まで進行していると診断され、そして患者さん自身も「白内障手術を受けよう」と決めたとしましょう。次にすることは、手術を受ける医療機関の選択です。
患者さんはどのような基準で、どのような点に着目して、白内障手術を受ける医療機関を選べばよいのでしょうか。
というのも、私は来院した患者さんから、
「いろいろな病院やクリニックのホームページを見ましたけど、何がどう違うのか分かりませんでした」
「兄が手術した眼科では『眼内レンズは1種類しかない』と言われたらしいんですけど」
「たくさん手術しているお医者さんほど名医なんですか?」
などなど、手術を受ける眼科を選ぶときに困ったという経験談をよく聞くのです。「先生がどんな治療をするか知りません。でも近所の人が『ここで手術したら、良くなったよ』と言うので来ました」と話される患者さんもいて、それはとてもうれしい言葉ですし、実際「口コミがいちばん信用できる」という声もよく聞きます。
インターネット上などに流れる匿名情報はそうとも言い切れませんが、友人や知人など周りに白内障手術を経験した人がいれば、体験談を聞くと参考になるでしょう。
しかし、身近にそういう相手がいるとは限りません。ここでは眼科医の一人として、白内障手術を受ける医療機関を選ぶときに注目すべきポイントなどを紹介します。そして同時に、従来世の中に流布されている、さまざまな〝名医〟の価値基準の信憑性・信頼性などを考えていきたいと思います。
選択基準①白内障手術を日常的に実施しているか?
まず優先させて考えたいのはやはり「安全性」です。日帰りでも受けられるので「白内障手術は簡単な手術」ととらえられがちですが、外科的治療である以上は、万が一にも医療事故につながらないよう留意しなければなりません。
この点については、日本の眼科全体がある程度、一定の安全水準を満たしている状況といって良いでしょう。白内障手術は、ここ20~30年間で大きな技術的進歩を遂げました。
少しだけ歴史を振り返ると、白内障手術は当初、白内障のために濁った水晶体のすべてを取り出すという方法の手術から始まりました。その頃はおよそ20~25㎜程度の眼の大きさに対し、約10㎜の大きさで眼を切っていました。まだ人工眼内レンズが発明されていなかったので水晶体を切除したままにするしかなく、術後は分厚いレンズの眼鏡をかけて水晶体の機能を補うしかありませんでした。
やがて水晶体の代わりになる人工眼内レンズが登場し、手術後の視力が大幅に向上するようになりました。そのあとは、いかに眼に優しく(低侵襲)、いかに正確で安全な手術を行うか、という方向で白内障手術の技術は進歩してきたのです。
手術を必要とする高齢者層が増えたこともあり、今日では全国各地の眼科医療機関で年間約140万件もの白内障手術が行われています。眼科の技術的なレベルも安定し、「白内障手術は、どの医療機関で受けても安全・安心」という声も聞かれるほど、広く信頼を得るようになりました。
もちろん概して「安全性が高い」といっても、医療機関による差異は存在します。それを判断する目安の一つになるのは、「白内障手術を日常的に行っている医療機関かどうか」「白内障手術に力を入れている医療機関かどうか」という点の比較です。
日常的に白内障手術を実施している医療機関なら、白内障手術に関するスキルや勉強は一定以上に積み重ねていると推測できます。たまにしか手術を行わなければ、技術的に不慣れになりやすいのは自明の理といえるでしょう。