何よりも重視すべきは「術後満足度」
筆者のクリニックの屈折誤差が件数・平均値とも低い数値で推移するようになったのは、3年ほど前、検査のあり方を見直して徹底的に精度を追求し始めてからです。それまでの白内障手術において生じる誤差±0.5D以内は約70%で、±0.25D以内の症例はもっと少ないので累計を出していませんでした。要するに、前掲のヨーロッパ12カ国の調査から浮かび上がった数字とほぼ変わらないレベルだったのです。
それが、正確で入念な術前検査と術中検査を行うようになって以来、屈折誤差が急速に減少し、術前に予測した数値がそのまま結果に表れることが増えました。すると「期待どおりの見え方になった」と患者さんに喜んでもらえるようになったのです。
患者さんに喜ばれるのは医師にとってなによりの喜びです。「もっと多くの患者さんに喜びを」と欲が出ます。1項目の検査に2~3種類の機器を用いて平均値を出してみたり、検査で導き出した数値を反映する精密な手術が可能な装置に買い替えたり、いろいろな取捨選択や試行錯誤を重ねて、より確実に、より精度の高い結果を得られる今日の形態にたどり着きました。同時に、眼内レンズに関する患者さんへのコンサルテーションでも、それまでよりいっそうコミュニケーションの時間を重視するようになりました。
どのような見え方を求めているか、毎日どんな生活を送っているか、例えば「本人は『本を読むのが楽になるように』と言っているが、話を聞いていると本より新聞を読むことのほうが多そうだな」と考えて質問し直すといった、いわば「手を替え品を替え」で個々の患者さんに最もふさわしい眼内レンズの種類や度数を探します。
合同説明会を行う医療機関もあり、効率的ということで患者さんも気軽に参加できるようです。ただ筆者自身は、患者さんのそれぞれの診察時間のなかでじっくり時間をかけて説明します。患者さんの顔を見ながら、一人ひとりにきちんと内容をお伝えしたほうが、患者さんも途中で質問したいことをどんどん筆者に聞けますし、納得もしやすいようです。
診察時間に個別に説明すると、患者さんの白内障に関する理解の度合いや、どんなことに不安を感じて何を求めているかなどを把握する良い機会になります。説明会のためにわざわざ来院してもらう必要もありませんし、今後もこの方法を続けるつもりです。治療とは、量より質です。治療内容が患者さんのその後の日常生活を大きく左右する白内障手術ならなおのこと、医師の責任は重大です。
筆者のような考え方は、白内障手術を手がける眼科医のなかでは珍しいかもしれません。現在も手術件数の増加を目指すような経営方針の医療機関が主流ですが、本書を出版することで「こういうやり方もあるのか」と気に留めてくれる同業者が増えるといいな、とひそかに思っています。
渡邊 敬三
南大阪アイクリニック 院長
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