2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの中小企業が苦境にあえいでいます。特に金融機関から借入金の返済条件変更(リスケジュール)を受けた企業が、資金繰りが追いつかずに倒産する事例が目立っています。本連載では、企業再生のスペシャリストである坂本利秋氏が、中小企業が経営難を乗り切る方法を解説していきます。今回は「融資」について焦点をあてていきます。

長引くコロナ禍、追加で融資の相談をしたが…

話しを戻しましょう。

 

政策公庫の借入を実現した鈴木さんですが、あっという間に6月になり、予想通り資金繰りが苦しくなってきました。今度は商工中金を訪れ、新型コロナの特別貸し付けの相談をします。

「政策公庫より融資を受けましたが、新型コロナの影響は3ヵ月では終わらず、また資金繰りが苦しくなりました。融資をお願いいたします」

「何か、御社の経営状況が分かる資料をお持ちですか。決算書ですね。拝見させてください。

前期決算は赤字だったのですね。新型コロナの収束時期はわかりませんが、仮に収束した場合、融資の返済は問題なさそうですか?」

「前期が赤字だとおわかりでしょう。政府系の金融機関さんなのだから、新型コロナで中小企業がダメージを受けた今こそ、融資すべきではないのですか」

後日、商工中金より融資できない旨の連絡がありました。残念……。

 

今度は筆者の別の顧問先企業のお話です。

 

こちらは、新型コロナ感染拡大前から返済猶予、いわゆるリスケの状態にありました。前期の決算も赤字です。従来であれば、新規の融資は実質不可能な状態です。しかし、固定費の6ヵ月程度の新型コロナ融資を商工中金より受けることができたのです。

 

・前期は確かに赤字ですが、今期は新型コロナ前までは償却前営業損益で黒字だった。

・コロナ禍で、経費削減などの経営改善を進めており、前期並みの売上高でも十分利益が出るようになった。

 

簡単に言えば、上の事をきちんと資料を作成して説明しただけなのですが、鈴木さんの会社と筆者の顧問先の違いは2つだけです。

 

・いくらコロナ禍とはいえ、あくまで融資である以上、返済の妥当性を示せなければ、融資の決裁がおりないという原理原則を正しく理解して、行動したこと。

・納得性の高い資料を作成したこと。

 

余談ではありますが、リスケ中の会社でも融資が実現したのは、新型コロナの影響を受け、経産大臣らが業界へ資金繰り支援の要望をしたためです。何度か要望書が出されておりますが、2020年6月10日付の財務大臣兼金融担当大臣麻生太郎、経済産業大臣梶山弘志による「新型コロナウイルス感染症の影響拡大・長期化を踏まえた事業者の資金繰り支援について」から、一部を抜粋します。

 

特に政府系金融機関等における融資審査については、累次にわたって要請しているとおり、赤字や債務超過、貸出条件の変更先といった形式的な事象のみで判断するのではなく、事業者の実情に応じて、最大限の配慮を行うこと。

 

分かりにくいかもしれませんが、赤字、債務超過、リスケという事実のみをもって融資をしないと判断するのではなく、実情を見て判断してください、というメッセージです。筆者の顧客も上の要望書があったために融資が実現しました。

 

この2例通じて伝えたいことは次の通りです。

 

1.融資に関する有形無形の正しい情報を獲得すること
2.上に必要な正しい資料を作成すること

 

筆者のような企業再生コンサルは、大臣の要望書、経産省のコロナ関連の支援策パンフレット、金融機関の融資姿勢の変化などは、絶えずアンテナを張って日々情報を更新しています。

 

同様に資料作成についても、筆者にとっては日常であり苦になりません。

 

上のようなことを得意とする経営者は自身もしくは社内にて行ってください。一般的な中小企業の経営者は不得手でしょうから、外部の再生コンサルの活用なども検討ください。コロナ禍で政府の支援策を徹底的に使いきるのと同じく、コンサルを上手に使うのも経営能力です。

 

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