一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

安定している患者さんを開業医の先生へ「逆紹介」

実は、我々が「逆紹介」を早速強化したのには、こちらにも止むに止まれぬ事情があってのことだったのです。

 

赴任した当初、すでに糖尿病内科の外来の予約枠は連日満杯の状態でした。そういった状況であっても日々初診の患者さんも来られますから、「これ以上、外来受診者数が増えてしまっては、自分たちのキャパシティーを超えてしまう。『働き方改革』どころの話ではない!」という危機感があったのです。

 

そう思いつつ、実際に私が外来診療を始めてみると、血糖値が非常に安定していて、スタチンや降圧薬の処方だけですむ患者さんも少なからず通院されていることがわかりました。そんな病状が安定されている患者さんでも、「安定していますね。では、前回同様お薬を出しておきます」で終わるような、あまりに短い診療では、「3分診療だった」といった苦情が寄せられかねません。

 

こうした患者さんの中には、確かに過去には、血糖コントロールが不良でインスリン治療が必要であった方も多くいらっしゃいます。それが本人の努力もあり、インスリン治療を離脱され、現在は安定した状態になっているのです。

 

そこで、我々はこういった症状の安定している患者さんには、地元の内科の開業医の先生方のところに積極的に戻って頂くように働きかけることにしました。他の医局員の外来の患者さんも含めて、赴任初年度に合計150人程度、地域の医療機関へ「逆紹介」し、地元に帰ってもらいました。

救急外来への信頼の上になりたつ「逆紹介」

「逆紹介」を行うにあたり覚悟していたのは、多くの患者さんから反発でした。

 

そこで、該当する患者さんには「現在は血糖コントロールが安定しているので、地元のクリニックに戻ってもらいたいと考えています」と伝えた後、「ご存知の通り、この病院は日頃から救急要請を断らずに診療を行っています。ですから、何かあったらいつでも遠慮なく連絡してください」と続けました。すると、驚いたことにほとんどすべての患者さんが快く承諾して下さり、非常にスムーズに「逆紹介」を行うことができたのです。

 

これはひとえに、普段から救急搬送を断ることなく受け入れてくれている救急外来に関係する診療科の先生・スタッフたちが築いてきた「何かあったら静岡病院はきちんと面倒を見てくれる」という信頼のおかげだと、今でも感謝しております。

 

この「逆紹介」が、後に地域の開業医の先生の信頼を得る大きな足掛かりになるとは、その時、正直思いませんでしたし、当時は期待もしていませんでした。

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