一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

円滑な地域の医療連携で、高度な医療に専念

このように積極的に「逆紹介」を行うようになったことで、結果的に我々は専門医の力を必要としている、例えばインスリン投与が必要な糖尿病患者さんへの治療に専念できるようになりました。

 

さらに大きな副次的効果として、このように大々的に「逆紹介」を行ったことを、地域の開業医の先生方が非常に好意的に受け取ってくださったのです。医師会の勉強会等でお会いすると、「そういえば、最近患者さんを2人も『逆紹介』してくださいましたね」と、声をかけてきて下さる先生もおられました。

 

このように、開業医の先生方に「あそこの糖尿病内科は、ちゃんと患者を返してくる」という認識を持ってもらえたことが、結果として継続的な紹介状増加へと繋がっていきました。そのことは、当診療科の収益にも如実に反映されていきます。実際、有り難いことに静岡病院糖尿病内科の収益は未だに右肩上がりを示しています。

 

 

 

私たちの取り組みについては、令和元年度の厚生労働省委託事業である『医療勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究事業報告書』p362で、先行事例としてご紹介いただいております。
参考:https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/casestudy/issue-detail?issue-id=208

 

こういったことは、当診療科に「心理的安全性」を実感してもらえる近隣の開業医の先生方の輪が広がったからこそ、紹介患者数の増加や収益増といった“目に見える”形での結果に繋がっていったのだと考察しています。

 

そして、静岡病院の糖尿病内科が、拠点病院の専門医として診るべき患者さんを断ることなく受け入れて、状態が安定した患者さんは順次地元に戻ってもらう方針を明らかにし、スムーズな形で地域連携が実現したことで、伊豆半島全体での糖尿病診療の水準が底上げされたとも考えています。

 

さらに、我々拠点病院の医師としては大変有り難いことに、救急外来での診察が初診となる患者さんが減り、時間外勤務を減らすこともできたのです。

 

専門医が診るべき患者さんと、プライマリケア領域の医師が診るべき糖尿病患者さんの棲み分けができ地域医療の連携体制整備が進むことは、厚生労働省等が盛んに議論を行っている、高齢者人口がピークを迎え、社会保障負担の対GDP比が最も高くなると考えられている2040年を見据えていく上でも、非常に大切なポイントであるといえます。
(参考資料:『2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)』https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000207399.pdf)

 

働き方改革のポイント
●地域の医療機関との連携も検討する
●自院で診察すべき患者さんはだれか考えて、アクションを起こす
●専門医とプライマリケア領域の医師の棲み分けが時間と収益を生む例があることを知る

 

佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表

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