ウイスキーの本場といったらどこを思い浮かべるだろうか? イギリス、アメリカ――それだけではない。今、日本のウイスキーの評価はうなぎのぼりで、世界中の賞を総なめにしている。だが、肝心の日本人はその事実を知らない。しかし、それではもったいない――ウイスキー評論家の土屋守氏はそう語る。ここでは、ウイスキーをもっと美味しく嗜むために、日本のウイスキーの歴史や豆知識など、「ジャパニーズウイスキー」の奥深い世界観を紹介する。本連載は、土屋守著書『ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー』(祥伝社)から一部を抜粋・編集したものです。

問題点②:日本の酒税法には「熟成」への言及が皆無

樽熟成に関してもほかの五大ウイスキーでは詳細な規定があり、それぞれ次のようになっています。

 

【スコッチウイスキー】

●容量700ℓ以下のオーク樽に詰める

●スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させる

 

【アイリッシュウイスキー】

●容量700ℓを超えない木製樽に詰める

●アイルランド、または北アイルランドの倉庫で3年以上熟成させる

 

【アメリカンウイスキー】

●オーク樽で熟成させる(コーンウイスキーは必要なし)

 

【カナディアンウイスキー】

●小さな樽(700ℓ以下)で3年以上熟成させる

 

「穀物を原料とする」「蒸留を行なう」「木製容器で熟成する」。これがウイスキーの三大要件です。日本を除く五大ウイスキーは、アメリカンのコーンウイスキーのように一部例外はありつつも、基本的にはこの要件をすべて満たしています。

 

ところが日本の酒税法では、そもそも熟成についての言及がまったくありません。これでは、熟成せずともウイスキーを名乗ることができてしまいますし、木製ではなくプラスチックやホーロー製の容器に5年貯蔵したような製品も、「5年熟成」などといってウイスキーと謳うことが可能です。しかも、そこに「ジャパニーズ」を冠してもなんの罰則もないのです。

問題点③:「混ぜ物9割」でもウイスキーを名乗れる

そして酒税法の最大の問題点が「ハ」です。「ハ」の()内をよく読んでみてください。

 

 イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る)

 

これはつまり、ひらたくいうと「モルトウイスキーあるいはグレーンウイスキーが10%入っていれば、残りが醸造(ブレンド用)アルコールでも、ジンやウォッカでもOK」ということです。ちょっとびっくりしませんか?

 

そして、実際、低価格帯の製品には、ウイスキー以外のスピリッツや醸造アルコールを混ぜた、ウイスキー風のアルコール飲料が少なくないのです。量販店や大型スーパーに行ったら、売り場に陳列されている国産ウイスキーのなかで一番安い製品のラベルをチェックしてみてください。原材料欄にスピリッツやブレンド用アルコールと記載されているものがあると思います。

 

醸造アルコールを使ってもウイスキーを名乗れるというのは、ほかの五大ウイスキーの産地では絶対にありえません。日本では、醸造アルコール入りのウイスキーは戦後からずっと認められてきました。そのおかげで、戦後の物不足の時期にもウイスキーが飲めたという側面はあるでしょう。

 

しかしその結果、諸外国にはない「原酒混和率」などという用語が存在しています。この点をうやむやに放置しているのは日本だけなのです。もはや戦後すぐの状況とは違います。早急に見直すべきです。

 

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土屋 守

ウイスキー文化研究所代表

ウイスキー評論家

 

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