消費の低迷を食い止めた「角ハイ」と「マッサン」
1983(昭和58)年のピーク以降、ウイスキーの消費量は下降が続きました。シングルモルトが登場してひそかにブームになったり、2001(平成13)年には「シングルカスク余市」と「響21年」が世界的な賞を受賞したりと、ウイスキー業界にとっては吉報もありましたが、消費量を回復するには至りませんでした。
その状況が変わったのが2009(平成21)年です。ここから、国内のウイスキー消費量が再び盛り返します。何がきっかけだったかおわかりになりますか? ハイボールの復活です。2008(平成20)年ころから、サントリーは「角瓶」をソーダで割る「角ハイボール」、通称「角ハイ」の広告を大々的に展開しました。
「ウイスキーが、お好きでしょ」の名曲とともに、女性店主が営むバーでの人間模様が描かれたこのシリーズは、2020年現在も継続中。初代店主を女優の小雪(こゆき)、二代目を菅野美穂(かんのみほ)、三代目を井川遥(いがわはるか)が演じています。1950年代から1960年代にかけてトリスバーをはじめとするスタンドバーが急増した時期、流行したのがハイボールでした。それが40年以上経って再燃したのです。
当時を知らない若い世代にとって、ハイボールは「新しいお酒」かつ「おしゃれなお酒」でした。ソーダで割るのでアルコール度数が下がって飲みやすいところも、飲みやすいお酒を好む若者たちに合っていたのでしょう。一方、かつてさんざんハイボールを飲んだ世代にとっては、「懐かしの酒」であり「思い出の酒」でもあります。角ハイボールはこの二つの層を取り込むことに成功したのです。
現在、居酒屋に行けば、さまざまな銘柄やレシピのハイボールを楽しめます。コンビニやスーパーでは、お酒売り場には「角ハイ」「トリスハイボール」「ブラックニッカハイボール」のほか、スコッチウイスキーの「ホワイトホース」やバーボンウイスキーの「ジンビーム」など海外のウイスキーをベースとしたハイボール缶も並んでいます。ご当地ハイボールも生まれ、まさに百花繚乱(ひゃっかりょうらん)です。
ハイボール人気でウイスキーの消費量が少しずつ回復に向かうなか、2014(平成26)年9月から、NHKの朝の連続テレビ小説『マッサン』の放送が始まりました。『マッサン』はニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝とその妻リタをモデルとしたドラマです。竹鶴政孝をモデルとした亀山政春を俳優の玉山鉄二が、リタをモデルとしたエリーをシャーロット・ケイト・フォックスが演じました。
連続テレビ小説において、主演を男性俳優が務めるのはかなり珍しいのだそうです。それにもかかわらず、全150回の平均視聴率は21.1%を記録。2013(平成25)年に放送され、社会現象にもなった『あまちゃん』の平均視聴率20.6%を超えました。このドラマのウイスキー考証を務めた身として、また、一ウイスキーファンとして、うれしい限りです。
マッサンを見て北海道の余市蒸溜所を訪れた人も多かったようで、2015(平成27)年には年間90万人もの観光客が訪れたとか。サントリーの山崎蒸溜所や白州蒸溜所にも多くの観光客が足を運び、マッサンの放送は、ウイスキーの景気回復の大きな追い風となりました。