なにも足さない。なにも引かない。…ウイスキー隆盛期の回顧録

ウイスキーの本場といったらどこを思い浮かべるだろうか? イギリス、アメリカ――それだけではない。今、日本のウイスキーの評価はうなぎのぼりで、世界中の賞を総なめにしている。だが、肝心の日本人はその事実を知らない。しかし、それではもったいない――ウイスキー評論家の土屋守氏はそう語る。ここでは、ウイスキーをもっと美味しく嗜むために、日本のウイスキーの歴史や豆知識など、「ジャパニーズウイスキー」の奥深い世界観を紹介する。本連載は、土屋守著書『ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー』(祥伝社)から一部を抜粋・編集したものです。

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前回の記事『すこし愛して、ながく愛して。…魅惑的なウイスキー広告の歴史 』では、ウイスキーの歴史と広告業界の歩みを紹介しました。今回は1985~1989年までの遍歴を一挙公開します。

 

1985年:ニッカ度数51%「フロム・ザ・バレル」 発売

1985(昭和60)年、御巣鷹山(おすたかやま)に日航ジャンボ機が墜落。多くの犠牲者を出し、社会に大きな衝撃を与えました。一方、男女雇用機会均等法が制定されたり、NTTが携帯電話「ショルダーフォン」を発売したりと、日本人の働き方や暮らしが大きく変わる出来事が起きた年でもありました。

 

そんななか、ニッカウヰスキーは「フロム・ザ・バレル」を発売します。フロム・ザ・バレルの特徴は、熟成を経たモルト原酒とグレーン原酒をブレンド後、もう一度樽に詰め、数ヵ月ほど再貯蔵している点。さらに加水を最小限にとどめ、アルコール度数51%で瓶詰めしています。フロム・ザ・バレルはその後、世界的な品評会で高く評価され、現在も販売されています。

 

前年にシングルモルトをリリースしたとはいえ、サントリーもニッカウヰスキーも、ウイスキーの屋台骨はブレンデッドです。サントリーは、サントリーホワイトのCMキャラクターにアメリカのジャズピアニスト、ハービー・ハンコックを起用。ハンコックが代表曲「Watermelon Man」と「Maiden Voyage」を弾く二つのパターンに加えて、ベーシストのロン・カーターと共演するバージョンもありました。映像は演奏している様子が中心で変わった演出があるわけではないのですが、それがとにかくかっこいいのです。

 

サントリーオールドのCMには、西部劇俳優のリー・ヴァン・クリーフが出演。名曲「夜がくる」をバックに、グラスを傾けながら友について語る姿が渋かったのを覚えています。CMタイトルは「MY OLD FRIEND」編。オールドも我々のよき友になりうる、そんなメッセージが込められているのでしょう。

1986年:日本がスコットランドの老舗蒸留所を買収

バブル景気がはじまった1986(昭和61)年、スーパーニッカのテレビCMは実に格調高いものでした。世界的なソプラノ歌手キャスリーン・バトルが、アリア「オンブラ・マイ・フ」を湖畔(こはん)で独唱する映像を、鮮明に覚えている方もいるのではないでしょうか。当時、バトルは日本ではまったく無名でした。

 

しかし、このCMがきっかけとなって一躍時の人となり、同曲を収録したLPは、クラシック部門では異例の大ヒットとなったそうです。CMを演出したのは『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』などで知られる実相寺昭雄(じっそうじあきお)監督。実相寺監督がオペラに造詣が深いことは、熱心なファンの間では有名な話だったとか。

 

さて、1986年もウイスキー業界では大きなニュースがありました。宝酒造・大倉商事によるトマーティン蒸留所の買収です。このころスコッチは大いに低迷し、ウイスキーメーカーはどこも息も絶え絶えといったありさま。1897年創業のトマーティン蒸留所も同様でした。対して日本はバブル景気で大盛り上がり。日本企業による海外企業の合併・買収が相次ぎました。

 

だからといって、日本の酒類メーカーがスコットランドの由緒ある蒸留所を買収するとは、誰も予測だにしていなかったでしょう。以降、日本企業によるスコットランドの蒸留所の買収がたびたび起きます。

1987年:流行語「ワンフィンガー、ツウフィンガー」

1987(昭和62)年3月、安田火災海上保険がゴッホの傑作「ひまわり」を53億円で落札しました。バブルを象徴する出来事の一つといえるでしょう。大人たちがバブルに浮かれるなか、子どもたちはビックリマンシールに夢中になっていました。

 

さて、この時期に流行した「ワンフィンガー」「ツウフィンガー」といういい方を、今の若い方は知らないかもしれません。ワンフィンガーは水割りのシングル、ツウフィンガーはダブルの目分量を示しています。240㎖くらいのタンブラーの側面に指をあて、底から指1本分の深さにウイスキーを注ぐとシングル、指2本分でダブルとなることから、それぞれワンフィンガー、ツウフィンガーと呼んだわけです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

この呼び方を広めるきっかけとなったのがサントリーオールドのCMです。作家の村松友視(むらまつともみ)が出演し、キャッチコピーは、「ワンフィンガーで飲(や)るもよし。ツウフィンガーで飲(や)るもよし。」。「ワンフィンガー」「ツウフィンガー」は翌年の新語・流行語大賞の流行語部門・大衆賞を受賞しました。

 

また、サントリーがサントリースペシャルリザーブをリニューアルしたのもこの年です。広告にも思い切って資金を投入し、アメリカの名優ミッキー・ロークを起用。ロークはCMでひと言もしゃべりません。けれども絵になる。さすが名優です。

 

翌年にはサントリーオールドもリニューアルし、広告には作家の村上龍(むらかみりゅう)が登場しています。

ウイスキー文化研究所代表 ウイスキー評論家

1954年、新潟県佐渡生まれ。学習院大学文学部国文学科卒業。フォトジャーナリスト、新潮社『FOCUS』編集部などを経て、1987年に渡英。1988年から4年間、日本語月刊情報誌『ジャーニー』の編集長を務める。取材で行ったスコットランドで初めてスコッチのシングルモルトと出会い、スコッチにのめり込む。
日本初のウイスキー専門誌『The Whisky World』(2005年3月-2016年12月)、『ウイスキー通信』(2001年3月-2016年12月)の編集長として活躍し、現在はその2つを融合させた新雑誌『Whisky Galore』(2017年2月創刊)の編集長を務める。
1998年、ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれる。主な著書に、『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)ほか多数。

著者紹介

連載ウイスキー評論家が語る!日本人が知っておきたいジャパニーズウイスキーの奥深い世界

ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー

ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー

土屋 守

祥伝社

世界のトップ層は今、ウイスキーを教養として押さえています。翻って日本人の多くは、自国のウイスキーの話さえ満足にできません。世界は日本のウイスキーに熱狂しているのに、です。そこで本書では、「日本人とウイスキー(誰…

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