ジャパニーズウイスキーの定義は存在しない?
ジャパニーズウイスキーは今、国際市場においてその地位を確立しつつあります。しかし、ここにきて大きな問題が浮上しています。ジャパニーズウイスキーの定義についてです。
この問題について詳しくお話しする前に、一つ、クイズを出します。次の①~③はジャパニーズウイスキーと呼べるでしょうか? ちょっと考えてみてください。
①国内でつくられたモルトウイスキー、またはグレーンウイスキーが1割で、残りの9割が醸造アルコールの製品
②海外から輸入したウイスキーを日本で瓶詰めした製品
③大麦麦芽を糖化・発酵・蒸留し、その後、樽で熟成せずに瓶詰めした製品
いかがでしょうか。①~③のどれも、「ジャパニーズウイスキーではない」と回答した方がほとんどではないでしょうか。③に至っては、「そもそもウイスキーの定義からはずれるのでは?」と思った方もいるはずです。
ところが、日本においては、①~③はすべてジャパニーズウイスキーを名乗ることができます。ラベルにジャパニーズウイスキーと大きく表示して国内で販売するだけでなく、海外で売ることもできますし、実際に流通しています。戦後の混乱期の話をしているのではありません。令和の今まさに起きている現実なのです。
なぜ、このような問題が起こるのか。それは、どんな要件を満たせば「ジャパニーズウイスキー」、あるいは「日本産ウイスキー」といえるのかを定める法律が、日本には存在しないからです。
ウイスキーの定義に関しては酒税法がありますが、これは品質を担保する内容にはなっていません。ここで改めて、酒税法上のウイスキーの定義を少し詳しくした説明しましょう。
【日本の酒税法上のウイスキーの定義】
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る)
ロ 発芽させた穀類及び水によって穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る)
ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る)
ここでいう「イ」は一般にモルトウイスキーを、「ロ」はグレーンウイスキーを指すと考えていただいて結構です。右のイ、ロ、ハを満たせば、酒税法上はウイスキーと認められます。では、この定義のどこが問題なのか、順に見ていきましょう。
問題点①:生産場所に関する規定がない
世界五大ウイスキーのうち、スコッチウイスキーもアイリッシュウイスキーも、そしてアメリカン、カナディアンも生産場所に関する規定があります。
スコッチは「スコットランドの蒸留所で糖化、発酵、蒸留を行なう」、アイリッシュも「アイルランド、または北アイルランド国内」、アメリカン、カナディアンも「アメリカ合衆国」「カナダ国内」と明文化されています。
加えて、スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキーは地理的表示です。地理的表示は簡単にいうと、「地域ブランド」を生産者以外に勝手に使用させないためのルールで、国内外での模倣品や類似品の販売防止に効果を発揮します。
たとえば、スコッチの伝統的な製法に則ってつくったウイスキーであっても、日本でつくったウイスキーがラベル等にスコッチと表示することはできず、表示した場合は、行政の取り締まりの対象となるのです。
一方、日本の酒税法には、生産場所に関する記述がまったくありません。結果として、外国産ウイスキーと日本産ウイスキーを混ぜても「ジャパニーズウイスキー」、中身が100%外国産ウイスキーであっても国内で瓶詰めしていれば「ジャパニーズウイスキー」という詭弁(きべん)がまかり通ってしまうのです。