サブスクリプションのメリットは「売上安定化」と…
ここでは、「SDMSフレームワーク」について、順に見ていくことにしよう。最初に取り上げるのは、最初のSである「サブスクリプション(Subscription)」の経営戦略への導入である。サブスクリプションとは、商品・サービスの定期購入を促すこと、およびそれらを実現する施策のことを指す。これについては、ネットフリックスなどの何らかのデジタルサービスを既に契約している人も多いだろう。
今後は、IT製品だけでなく、すべての企業において経営戦略の中にサブスクリプションを取り入れなければならなくなると筆者は考える。
では、なぜサブスクリプションを経営戦略に取り入れなければならないか。サブスクリプションは、多くの人たちが議論しているように売上げの安定性をもたらすし、マーケティング投資効率の分析も可能である。だが、利点はそれだけでない。
サブスクリプションによってユーザーとの定期的なつながりを生み、無料登録、有料化、継続、解約という4つのフェーズから、なぜユーザーが商品を購入したのか、逆になぜ解約したのか、なぜ継続してくれているのかに関するデータを集めることができ、その結果から商品を改善させることができる。
そして、それらのすべての活動を通じてサービスを改善することで、売上げが上がり、最終的には企業のブランド形成に寄与する、という一連のサイクルが回る。これが、サブスクリプションを経営戦略上採り入れるべき最大のメリットなのである。
さらには、売上げの安定性はもちろん、次の投資の源泉となるキャッシュフローを生み出すことから、値下げなどの短期的な価格政策などで価値を損なうリスクが減るメリットもある。
コロナ禍でサブスクリプション成功…シスコの事例
シスコシステムズが「ウィズコロナ」で製品販売が減少したものの、サービス部門、特にサブスクリプションであるウェブ会議システムが売上げの減少を補ったことを紹介した。確かに短期的には売上げの安定化という意味でシスコシステムズのウェブ会議システムは貢献する。だが、2〜3年の目線で見れば、効果はそれだけではない。
シスコシステムズはウェブ会議システムを通じて、ルーターなどの購買を担当する企業の情報システム担当者とのつながりを強化し、さらにはエンドユーザーである社員との関係性も強化される。
「シスコのウェブ会議システムは使いやすい」というユーザーが増加すれば、情報システム担当者の目線も「シスコの製品はユーザーである社員に喜ばれる」と、その他の製品の販売も増加するかもしれない。また、契約や退会のデータを集めることで、自社のサービスがなぜ利用されているのか、もしくはされていないのかもわかる。
このことは、一度製品を販売すれば、故障やトラブルが起こらない限りユーザーと接することはない従来型のシスコシステムズのビジネスモデルとは大きく異なる。また、ウェブ会議システムには大量のデータの送受信が必要であるから、そのデータを大量に集めながら、本業であるルーターなどの情報インフラ製品の商品開発に活かすことができるため、製品販売も改善され、トータルで企業ブランドの向上にも大きく貢献している。
このように、サブスクリプションの価値は単なる売上安定化のためだけではないのである。