コロナショックで景気が急速に悪化する中、あらゆる企業が倒産予備軍である。売上の落ち込みはもちろん、不必要な固定経費も経営圧迫の要因であり、真っ先に見直しを進めるべき部分だ。ここでは、経営コンサルタントの森泰一郎氏がコロナ禍における企業の生存戦略を紹介する。※本連載は、『アフターコロナの経営戦略』(翔泳社)より一部を抜粋・再編集したものです。

失われた30年、米中に大きく水をあけられた日本企業

今回は、コロナショックは日本企業のあり方を変えるのかについて考察していきたい。

 

これについては既にさまざまな考察がなされているが、総じてコロナショックは「日本企業の生産性」を再検討する機会であり、日本企業のあり方は変化すると捉える視点が多い。筆者も、個別具体的なレベルでは、この考え方に賛成である。

 

日本企業は、これまで諸外国の企業と比べてマネジメントの分野において、固定観念に捉われて「できない」と取り組んでこなかったことが多い。たとえば、テレワークの推進やワーク・ライフ・バランス、女性・外国人の活用などである。

 

これらはコロナショックによって、「オンライン商談」「ウェブセミナー(ウェビナー)」「オンライン株主総会」「AI翻訳ツール」などが当たり前に普及したこと、自宅のオンライン設備が整いつつあることによって改善しつつある。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

またこれらに付随して、長時間通勤や紙・ハンコ文化が改善される方向に向かうことで、日本企業の生産性が上がるのではないかという考え方もある。これらが指摘する、個々の経営課題レベルでは、コロナショックは日本企業を間違いなく変えるだろう。しかしながら、これはあくまで各論の話である。

 

IT化、キャッシュフロー・マネジメント、脱ROEなどの経営のマクロトレンドに沿うこと、そして具体的な経営戦略レベルの見直しをしなければ、個々の企業間の競争においては、今後も海外企業に勝つことはできない。

 

ここで、図表1と図表2の世界の時価総額ランキングを見ていただきたい。ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代であった1989年の世界時価総額ランキングでは上位50社のうち、32社が日本企業であり、アメリカ企業は15社、中国企業は0であった。当時は高品質・低価格の戦略で世界を席巻した日本企業の時代であった。

 

[図表1]世界の時価総額ランキング(1980年末)

 

しかしながら、そこから失われた30年が始まる。2020年5月末の段階で、上位はアメリカのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を筆頭に、米中のIT系企業が上位を席巻している。国別ではアメリカの企業がそのまま日本企業の地位を奪い35社、中国が6社、日本企業は42位のトヨタ自動車1社にすぎない。

 

[図表2]世界の時価総額ランキング(2020年5月末)
 

具体的な企業を見てみると、コロナショックで急激に会員数を増やしたネットフリックスは時価総額ランキング38位で約17兆円。同社は1997年に設立されており、設立20年たらずで、日本企業の時価総額ランキングに当てはめるとNTTドコモ(10兆円)よりも価値がある存在になった。

 

他にも、パソコンやスマホ向けの半導体メーカーであり、近年は自動運転でも知名度を上げているエヌビディアは1993年に設立されたにもかかわらず、時価総額が約18兆円と、ネットフリックス同様、ほとんどの日本企業よりも時価総額が上である。

 

この30年の間で、日本企業はアメリカのIT企業やグローバル企業、中国の国有系の企業、IT企業に抜かれてしまったのである。このまま、何もせずに「アフターコロナ」を迎えれば、この30年は40年、50年と年月を積み重ねていくことにしかならない。

 

ちなみに、1989年に上場していた日本企業の中で当時から現在までに時価総額が2倍以上となった企業は、トヨタ自動車、武田薬品、ファナック、デンソー、本田技研、ブリヂストンの6社にとどまる。1994年に上場し、日本の時価総額ランキング3位のソフトバンクを加えても10社にも満たない。それだけ日本企業の時価総額は向上していないのである。

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アフターコロナの経営戦略 コロナショックを生き延びる! 事業経営の実践ノウハウ

アフターコロナの経営戦略 コロナショックを生き延びる! 事業経営の実践ノウハウ

森 泰一郎

翔泳社

「ウィズ(with)コロナ」を生き残り、「アフター(after)コロナ」を制する者は誰か? さまざまな統計データや企業の決算書を読み解きながらリアルに解説! 多くの経営戦略の教科書は抽象的な議論が多く、なかなか実践を…

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