アフターコロナの「ニューノーマル(新常態)」とは?
「アフターコロナ」を見据えて、よく耳にするようになった言葉のひとつが、「ニューノーマル(新常態)」である。各種経済誌では、「ニューノーマル」特集がそこかしこで登場している。そこでは、「テレワークが当たり前になる」というレベルの指摘から、「東京一極集中から地方分散へ」「BCP(事業継続計画)対策が重要だ」「恒常的な不動産地価下落が訪れる」など、さまざまな視点からニューノーマルについて語られている。そのため、この言葉について混乱している人も多いだろう。
そもそも、ニューノーマルとはどのような意味だろうか。ニューノーマル(新常態)とは、これまではまったく新しい(ニュー)と考えられていたことが、ある時点をきっかけに標準(ノーマル)になる、つまり構造変化が避けられないことを示した造語である。リーマンショック後においてリーマンショック前の状態には戻らないという意味で、中国の習近平主席が2014年に「ニューノーマル」という言葉を用いたことから一般的に広まった。
現在、「ニューノーマル」論は、前述のように、テレワークやペーパーレスなどの個別具体的な論点が多い。
そこで本記事では、「アフターコロナ」の本質的な「ニューノーマル」とは何かについて、外部環境や経営スタイルといった、よりマクロの視点から理解するために、そもそもリーマンショック以降からコロナショックにいたるまで、どのような変化があったのか、それがどのように変化するのか、について見ていきたい。
ただし、個別具体的に変化を紹介しても上記と変わらない結論になりかねない。そこで、世の中の変化を体系的に分析する手法とその重要性をはじめて指摘し、多くの経営者が信頼する経営学者であるピーター・ドラッカーの『創造する経営者』(ダイヤモンド社)を参考とする。
ドラッカーは、未来を見通すためには、「既に起こった未来」から予測を立てることが重要だと指摘する。ドラッカーが「既に起こった未来」を見通すために必要としているポイントは5つある。
1点目に、人口構造の変化である。具体的には、労働力や市場、社会、経済にどのような人口構造の変化が起きているのか、ということである。
2点目に、知識の領域である。企業がその卓越性の基盤とするべき知識の領域がどのように変化しているのか、ということである。
3点目に、他の産業や他の国、他の市場の変化である。本連載の中で、読者にさまざまな業界の事例を紹介するのは、この指摘の通りだ。
4点目に、産業構造の変化である。リーマンショックから現在までにどのような産業構造の変化があったのか、ということである。
5点目に、組織内部の変化である。リーマンショックから現在までに企業の内部でどのような変化が生じているのか。この既に起こった未来は個々の企業によって異なるが、読者には改めて自社について分析してほしい視点である。
これらの視点を参考にして、経営戦略よりもさらにマクロな外部環境や経営スタイルといった視点から「ニューノーマル」が訪れるとすればどのような範囲で影響するのかについて見ていく。また、あわせて本当に「ニューエコノミー」なるものが登場するのか、それについても触れていきたい。
日本の人口は「2018年、1.28億人」からピークアウト
では、ドラッカーの視点をもとに、リーマンショック後からコロナショックまでの11
年間を見ていこう。ここからの話は全業界に当てはまるので、じっくりと読んでいただきたい。
まずはドラッカーが最初に指摘した、人口構造の変化について見ていく。
下記の図表1は、総務省統計局による2009年から19年までの11年間の人口の推移を示している。この非常にシンプルな統計は、実はいくつかの重要な「既に起こった未来」、そして「ウィズコロナ」から「アフターコロナ」までの視点を示している。
1つ目に、リーマンショック後、私たちが強く意識しない間に、日本の人口は2010年に1.28億人を記録し、ピークアウトしたということである。2010年といえば、日経平均は1万円前後。リーマンショックの底である8千円台からは2千円程度戻ったものの、リーマンショック前よりも8千円安い状態。記録的な猛暑もあり、消費が伸び悩んだ。さらには、「無縁社会」という言葉が流行語大賞にノミネートされたのもこの年である。
この頃、日本の目に見える成長力ともいえる人口がピークアウトし、減少に転じたのである。そこから、19年までに人口は180万人、1.4%も減少している。国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した「日本の将来推計人口(平成29年推計)」では、日本の人口は今後も減少し続け、2030年にはさらに600万人も減少し、1.2億人にまで減少、さらには2040年には1.1億人にまで下がることが想定されている。
「ウィズコロナ」を生き抜き、「アフターコロナ」を勝ち抜く上で、まずは人口が2010年にピークアウトし、今後10年間で、これまでの3倍以上減少することを想定しておかなければならない。これは、消費者が同程度減少することを意味している。つまり、あなたの企業が国内需要だけをターゲットとしているのならば、「ウィズコロナ」の今こそ、今後の顧客ターゲットについて、再検討しなければならないのである。
2つ目に、15〜64歳と呼ばれる生産年齢人口の急激な減少である。人口全体の減少については理解していた人も多いかもしれないが、生産年齢人口がこの10年で600万人、つまり10%も減少したことは知らなかった人も多いだろう。生産年齢人口は消費の中心であるだけでなく、労働の中心でもある。この層が減少していくことは、日本経済の活力を削ぐ結果となる。
「ウィズコロナ」の世界では、多くの企業が今後の採用人数を減らしたり、目の前のコストカットのためにアルバイトや派遣社員だけでなく、正社員のリストラを行ったりしている。一方で理解しておかなければならないのは、これまで「好景気で人手不足」と言っていたのは、そもそも生産年齢人口が10%減少してきたためであり、好景気だけが原因ではないことである。テレワークなどの生産性を向上させる施策や65歳以上の人にも労働力になってもらう施策はあるものの、今後、労働力は必ず、そして急速に減少する。
コロナウイルスの流行が収まり、本格的に景気が回復してくると、外国人労働者を積極的に登用しない限り、多くの企業で必ず労働力が足らなくなる。けれども、日本の大半の企業、特にホワイトカラーでは外国人労働者を積極的に受け入れられる準備が整っていないだろう。
したがって、「ウィズコロナ」の世界では、やみくもに社員数を減らすのではなく、不採算部門の撤退などで収益を改善し、仮に減らすとしても、その減らし方には十分に注意する必要がある。
以上のことから、人口構造の変化が日本企業に「ニューノーマル」を持ち込むことは明らかである。コロナウイルスによってそのスピードが速まった感はあるものの、これは不可逆的な変化だといえよう。