一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

医局員の「残業時間の多さ」への3つの解決策

着任早々から医局員にヒアリングを重ねることで当科が置かれていた「臨床上の課題」が明確になっていきました。その第一の問題はやはり、私が感じていた通り「時間外労働の多さ」でした。


ヒアリング後に解決策を検討し、私自身以下の3の施策を考えました。

 

それは
(1)薬物療法の工夫
(2)悪化する前の受診促進(第6回で解説)
(3)医局員の業務の見直し(第9回で解説)

です。

 

時間外労働を長時間化させているのが、高血糖・低血糖による救急外来受診の多さだった。(※写真はイメージです/PIXTA)
時間外労働を長時間化させているのが、高血糖・低血糖による救急外来受診の多さだった。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

着任して早々に私が掲げた「医師の働き方改革」の3つの方向性(第3回参照)、

 

(1)救急外来から搬送患者への血糖管理の要請があまりにも多いことから、できうる限り救急外来搬送患者を減らす
(2)医療レベルのクオリティを下げることなく、日々の診療体制の効率化を図る
(3)医局員から看護師・薬剤師・管理栄養士といったメディカルスタッフへのタスクシフトを行う。それだけでなく、メディカルスタッフも「働き方改革」をやってよかったと思ってもらえるようなモチベーションや業務スキルがアップする体制を作る

 

とも対応しており、私が肌で感じていた問題と医局員たちが抱えていた課題や要望とに大きな差異はありませんでした。

 

今回はこれらの中で、(1)薬物療法の工夫について具体的にお話ししたいと思います。
以前もお伝えしましたが、時間外労働を長時間化させているのが、高血糖・低血糖による救急外来受診の多さでした(第4回参照)。

 

なかでも救急外来からの「“夜間”に引き起こされる低血糖」の血糖コントロール要請は確実に時間外勤務での対応になりますから「残業時間削減」の大きな重しになっていたのです。実は、私も医局員たちも、(1)インスリンや経口血糖降下薬による薬物療法を工夫しさえすれば「“夜間”に引き起こされる低血糖」を十分に減らしていくことが可能だと考えていました。あまり当時は行われていない施策ではあったのですが、我々は、それを思い切って積極的に推し進めることにしました。

 

当時、一般的にはSU薬や30ミックスや25ミックスインスリンといった混合型インスリンを第一選択薬として処方されている患者さんが多かったのです。これらは古典的治療法とも言えるのですが、伊豆エリアでも、SU薬に依存した伝統的な治療方法が特に開業医の先生方の中ではまだまだ一般的でした。SU薬は、2型糖尿病の治療薬として1950年代から強力な血糖降下薬として国内外の臨床現場で長らく用いられてきました。

 

ただ、強力な血糖降下作用を持つがゆえに、たとえば患者さんが急性胃腸炎で食事がほとんどとれなかった場合等には、低血糖が起きてしまうという事態がたびたび認められていたのです。しかも、それが夜間や休日であると、現場の医療スタッフは、時間外勤務を余儀なくされることになります。それで、救急外来を担当している若い医局員ほど、安易なSU薬投与に不満を持っていたのです。

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