コロナショックで景気が急速に悪化する中、あらゆる企業が倒産予備軍である。売上の落ち込みはもちろん、不必要な固定経費も経営圧迫の要因であり、真っ先に見直しを進めるべき部分だ。ここでは、経営コンサルタントの森泰一郎氏がコロナ禍における企業の生存戦略を紹介する。※本連載は、『アフターコロナの経営戦略』(翔泳社)より一部を抜粋・再編集したものです。

コロナショックで企業は新旧問わず「横一列状態」へ

何も失われたのは、時価総額だけの話ではない。神戸大学の三品和広教授は、『経営戦略を問いなおす』(筑摩書房)の中で、日本企業は、本業の収益性を示す営業利益率はバブル崩壊から2010年までの20年の間、ほとんど改善していない、つまり日本企業は儲かっていないと指摘する。

 

日本企業が「ウィズコロナ」で検討しなければならないのは、時価総額や企業の収益性を変化させるファクターである経営戦略を「アフターコロナ」の時代にどう変えるべきなのか、この1点である。したがって、本連載もこの1点だけに絞って、これからの話を進めていきたい。

 

このまま政府の資金支援で多くの日本企業がコロナショックを乗り切ってしまった場合、日本企業の経営戦略はコロナショック前に逆戻りするのではないかという大きな懸念が筆者にはある。だからこそ、本連載を読んで、コロナショックを会社変革の契機として活用していただきたい。

 

リーマンショックから約10年、リーマンショック下から投資を進めてきた企業とそうでない企業との差は広がりつつあった。また、アベノミクスからベンチャー企業が多数生まれ、ユニコーン企業も誕生した。

 

しかしながら、コロナショックによって、この差はすべて消し飛んで、横一線の状態にまで戻ってきてしまった。そのため、これからナンバーワン企業を追いかける企業にとっては、コロナショックは千載一遇のチャンスともいえる。

 

逆に、このタイミングで何もアクションを起こさずに「アフターコロナ」を迎える企業は危険なことは前述の通りである。

コロナ後も「ニューエコノミーは訪れない」

最後に、雑誌や記事などで議論されている、「ニューエコノミー」なるものが成立するのか、について見ていきたい。ニューエコノミーとは、ITの活用により、在庫の循環が高速化されることで景気循環がなくなるという、まったく新しい経済形態のことである。

 

確かに、「ウィズコロナ」の世界でITが今以上に普及すること、そして経済成長よりも安定的な経済運営を目指す動きが加速すれば、実現も難しくはないように思える。

 

実はニューエコノミー論は、古くは1990年代後半から2000年までのITバブルの頃からアメリカで盛んに議論されてきたことである。ITバブル当時は、ITという新しい概念が登場したことで、資本主義は新たなステージに入り、もう景気後退はない、ずっとアメリカ中心の時代が訪れるのだ、と元FRB議長のアラン・グリーンスパンなど著名な経済学者が提言していた。

 

一方で、ピーター・ドラッカーは『ネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社)の中で、「ニューエコノミーなるものは誕生しない」と明確に否定した。なぜなら、ニューエコノミーが登場する前に、社会と組織が変化しなければならないと考えたからである。

 

ドラッカーの指摘では、ネクスト・ソサエティ(未来社会)が成立するための要素とは、①境界のない社会、②教育格差がなくなり、階級の上位移動が簡単な社会、③高度な競争社会、という3つの社会が訪れ、その結果、ニューエコノミーにたどり着く可能性があると考えたのである。

 

そして、ニューエコノミー論はITバブル崩壊とともに終焉し、再びコロナショックで生き返ってきたのである。仮にドラッカーの指摘が正しいと考えれば、まだニューエコノミー論は世界中のどこでも条件を満たしておらず、到底訪れないだろう。多くの国は上位層と下位層、右と左、グローバル化とブロック経済主義など、分断型の社会へ逆走している感もある。

 

したがって、「ウィズコロナ」が終わり、「アフターコロナ」の世界へ入ったとしても、「ニューエコノミー」が訪れることは当分ないというのが筆者の私見である。

 

同様に、「資本主義は終わった。今後は社会主義の時代だ」「脱グローバリゼーション」などの、過度な悲観論も企業経営においては気にする必要はない。これらの議論はリーマンショック時にも各所でなされていたが、実際にどのように推移したかは、ご存知の通りだ。

 

したがって、「アフターコロナ」の世界に向けて、反グローバリゼーションやナショナリズムが急速に進んだり、資本主義が終わったりすることはそう簡単には起きないと考えてよい。この点については、ビル・ゲイツ氏も2020年4月24日の『タイムズ』のインタビューで「国家主義やナショナリズムは助けにならない」と指摘している。

 

ただし、トランプ大統領が再選された場合、アメリカの経済状況次第だが、再び中国への関税が再度強化されたり、日本への関税が再び要求されたりするといった事態も起きないとは限らない。したがって、中国からの輸出入を主としている企業や、アメリカへの輸出などをメインにしている企業については、トランプ大統領の施策次第で一時的なブロック経済のような体制が起きる可能性があることには注意したい。

 

 

森 泰一郎

経営コンサルタント

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