4人に1人が認知症になる時代…元気なうちの備えが重要
誰しも、身近な人が認知症になることを望んではいないし、考えたくもありません。しかし、予備軍を合わせると65歳以上の高齢者の4人に1人が罹患しているといわれています。また、65歳以下の若年性認知症も、ちょっと古い統計ですが、2009年の厚生労働省実態調査によると、全国の若年性認知症の患者数は約37800人、東京都内では約4000人とされています。このように認知症は、もはや他人事ではないのです。
それだけに、万が一、親(被相続人)が、あるいは自分自身や兄弟姉妹(相続人)が当事者になることを想定し、元気なうちから準備をしておくことが大切です。
そうしておけば、本人が認知症になっても、希望どおりの相続を実現できます。また、自分が認知症になった場合も、家族などの相続人に苦労をかけずに相続手続きができる可能性が高くなります。
実際にどのような準備をすればよいのでしょうか。まずは、遺言書と任意後見契約の2点セット、おひとり様の場合は、死後事務委任契約を加えた「終活3点セット」を作成しましょう。
被相続人の希望を叶え、相続争いを防ぐ…遺言書の効力
相続には、民法で定められた相続人や相続分に従って分ける法定相続、遺言による相続、相続人全員が話し合って決める協議分割があります。なかでも遺言書は、被相続人が財産の分配について意思を書き残したものなので、法定相続よりも優先されます。
残念ながら、親の死後、それまで仲がよかった兄弟姉妹が遺産分割でこじれ、裁判にまで発展するケースは少なくありません。そのような相続ならぬ「争族」を未然に防ぐためにも、遺言書を残すことは意味があるといえます。
もちろん、理想は「すべての相続人が納得する遺言書」であることです。たとえば、遺留分を無視するなど、不公平感のある内容では、せっかくの遺言書が逆に争族の火種になりかねません。できれば被相続人が元気なうちに、家族が話し合って、納得のいく内容を書いてもらうのが理想です。
遺言書は、一度書いたら書き直すことができないというものではありません。状況や気持ちが変化したら、何度でも書き直すことができます。その際、気をつけなければいけないのは、古い遺言書とダブってしまうことです。ダブりは、トラブルのもとです。くれぐれも、そうしたトラブルにならないよう、しっかり管理することが重要です。
認知症や精神疾患を疑われると、遺言書が無効の場合も
遺言書を作成できるのは、15歳以上で、かつ遺言書の意味や内容をきちんと理解、判断できる能力「遺言能力」がある人に限定されます。そのため、たとえ遺言書を書き残しても、「遺言書作成時、すでに遺言者には認知症(の疑い)があった」、「精神疾患があった」と疑われると、最悪の場合、遺言能力がなったと判断され、遺言書が無効になることがあります。
そのようなことが起こらないように、認知症の疑いがある場合、あるいは今は認知症の症状はないが、万が一に備えて、公正証書遺言を用意することをおすすめします。これは、遺言能力があることがわかる証拠を揃え、公証役場において公証人のもとで作成する最も確実な遺言書です。
認知症になっても、必ずしも遺言書が作成できないわけではありません。医師2名立会いのもと、意識がはっきりした状態で作成したことを証明できれば、認められることがあります。現在、そのツールの1つとして利用されているのが「長谷川式認知症スケール」です。これは、認知症の可能性があるかどうかを簡易的に調べる認知機能テストですが、その判断は難しく、医師の協力も得られにくいのが現状です。
遺言書があれば、認知症でも遺産分割がスムーズ
一方、相続人の誰かが認知症でも、遺言書があり、法的要件を満たしていれば、遺産分割協議を行わず、遺言書の内容どおりに相続分割手続きを進められることもあります。
逆に認知症の相続人に後見人がついていない場合は、遺産分割を行うことはできません。後見人の選任には、手続きの手間や時間だけでなく、費用もかかります。自分が亡くなったときに相続人になる人の中に、すでに認知症を患う人がいた場合、あるいは高齢の相続人がいる場合には、積極的に遺言書を作成しましょう。
要件を満たした遺言書であれば、遺産分割はスムーズに進みます。相続人の負担を軽くする意味でも、遺言書は有効です。