毎年1200億円が「国のもの」に…休眠口座の問題
最近、休眠口座が話題になっています。休眠口座とは、銀行など金融機関にお金を預けたまま10年以上入出金などを行わず、名義人に連絡も取れなくなった口座のことを言います。
よくあるのが、まだ幼い子どもがもらったお年玉を、親が子ども名義で口座を作って貯金しておくとか、おじいちゃんおばあちゃんが、孫にあげたいからと孫名義の口座を作ってお金を貯めているというケース。
あるいは、アルバイトの給与振込用に作った口座、『【マンガを読む】気を付けて!忘れている預貯金はありませんか?』のように家族がへそくり口座を作って忘れてしまったなどです。こうした休眠口座に眠っている預金は毎年1200億円に上ります。
今なぜ休眠口座が注目されているかというと、2019年1月から、眠っている預金を公益活動に活用する取組みが開始されたためです。ちなみに2018年以前は、休眠口座に入っている預金「休眠預金」は、金融機関の収入になっていました。
2009年1月以降、10年以上取引のない口座が対象に
休眠口座の対象となるのは普通・通常預貯金、定期預貯金、当座預貯金、貯蓄預貯金、定期積金など9種類。2009年1月以降の入出金など最後の取引から10年経つと、金融機関は預金者の住所やメールアドレスあてに通知を送ります。
このとき、引っ越し後の住所変更、メールアドレスの変更を金融機関に連絡していない場合が問題になります。通知が届かず、その口座が休眠預金として預金保険機構へ移管されます。また、残高が1万円未満の場合は通知もなく、自動的に休眠預金になります。
なお、ある金融機関では「休眠口座」という名称を「未利用口座」に改め、一定の場合に「未利用口座管理手数料」を徴収しています。最後の預入れまたは払戻しから2年以上、一度も取引がない普通預金口座を未利用口座として取り扱い、未利用口座の残高が1万円未満である場合は、手数料として年間1200円(消費税別)が自動的に引き落されます。残高不足等により手数料の引落しができない場合、その口座は自動的に解約とされます。
預金者が認知症の場合、休眠口座の払戻しが不可能
ただし休眠貯金に該当していたとしても、預金保険機構に移された後であろうと、預金者等はいつでもその金融機関の窓口で払い戻しを受けることができます。通帳やキャッシュカードをなくしても、身分証の提示で払い戻しを受けることができます。
しかし、注意が必要なのは【マンガ】のケースのように、郵政民営化前の2007年9月以前に郵便局に預け入れた定期性の預金です。その満期から20年2ヵ月以上放置されると、旧郵便貯金法という法律が適用されるため、払い戻し請求権そのものが消滅してしまいます。これは郵便局を利用している、定期預金を作ったことがあると思う場合は確認をおすすめします。なお郵便局の通常貯金は休眠口座に該当しても払い戻しを受けることができます。
名義人である親が認知症を患ってしまうと、判断能力が低下しているために、定期預金の解約ができません。
仮に、親の「休眠口座」の存在に気付いていても、本人が手続きをしなければ休眠預金として預金保険機構に移されてしまうので、金額が大きければ大きいほど深刻な事態に。このようなケースでは、成年後見制度を利用して後見人に手続きを依頼することになります。
【マンガ】のケースで、もし認知症の親が亡くなり相続が発生すると、その事実を知った時点で口座が凍結され、入出金はできなくなります。その後の手続きは、まず相続人全員で遺産分割協議を成立させること、遺産分割協議が整ってから、口座の名義変更や解約を行うことで休眠口座の払い戻しも可能になります。
では、認知症の相続人がいた場合、預貯金の相続はどうなるでしょう。この場合も、被相続人(亡くなった親)の預貯金も休眠口座もすべて相続財産になります。しかし、被相続人名義の口座からお金を引き出すには解約手続きが必要で、この手続きには相続人全員の署名押印が必要です。しかし、認知症の相続人がいる場合は署名押印ができませんので、解約ができません。
本人が元気なうちにやっておきたい5つの対策
認知症になると、ふだん何気なく行っている生活はもとより、お金の管理が困難になります。特に、口座名義人が認知症を患うと、お金が引き出せなくなるため※、生活費を配偶者や親に頼っていた家族が困ったり、本人のための施設入居一時金が払えなかったりといった事態に陥ることも。親(あるいは家族の誰か)のことで「もしかして認知症?」と感じたら、本人と相談し、素早く対策を取りましょう。
※2020年3月、全国銀行協会は、認知症患者の預金を家族が引き出しやすくなるよう、各銀行に通達を出しました。一般向けに公開された資料では、引き出しに必要な確認書類を案内しています。
①定期預金を解約する
定期預金は銀行の窓口での手続きが必要な場合がほとんどです。本人の判断能力があるうちに、解約して普通預金に入金しておくことが大事です。認知症の症状が重くなってしまったとき、家族が必要な資金をキャッシュカードで引き出すことができます。認知症の家族がいる人の悩みの第1位が定期預金の解約なので、「あれ?」と思ったときに行いたいもの。しかし、強引に勧めると本人もよい気持ちはしないでしょうから、前向きに話合う中で進めていきましょう。
②通帳とキャッシュカードの保管場所と暗証番号を確認
銀行の通帳、キャッシュカードの保管場所を確認し、暗証番号を確認しておきましょう。本人が認知症になってから、これらを探すのは大変な作業になります。
③代理人カードを作る
銀行では、「本人と生計を同一にする親族」に限って、口座を持っている本人のキャッシュカード以外に「代理人カード」が1、2枚作れます。代理人カードがあれば口座のお金をすべて共有できるので、信頼できる人物を選任することが大切です。申請は本人が行います。カード作成の手数料や1日あたりの制限などは各銀行により異なります。
④代理人登録をしておくと良い貸金庫の解約
通帳や貴重品、遺言書や土地の権利書など重要書類、貴金属などの保管に利用されるのが銀行の貸金庫です。こちらは年間利用料がサイズによっても異なりますが1~4万円程度。本人の了解を得られたら、こちらも、定期預金同様に解約をするのが安心です。解約できるのは本人だけなので、元気なうちに解約を勧めましょう。
⑤医療保険・生命保険の受取人を確認
親の生命保険を確認しましょう。特に死亡保障の受取人が、認知症になった場合、請求ができずに受け取れなくなる場合があります。契約を確認し、代わりに請求ができる特約の代理請求人を決めておきましょう(無料)。
【監修】奥田 周年
OAG税理士法人 取締役
税理士、行政書士
【協力】IFA法人 GAIA 成年後見制度研究チーム
【編集】ビジネス教育出版社 『暮らしとおかね』編集部