65歳以上の4人に1人が認知症になる時代、希望どおりの相続を実現するには認知症対策が欠かせません。被相続人は、元気なうちに、遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約からなる「終活3点セット」を作成しておきましょう。ここでは「任意後見契約」について解説します。※本連載は、OAG税理士法人取締役の奥田周年氏監修の『親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7』(ビジネス教育出版社、『暮らしとおかね』編集部)より一部を抜粋・編集したものです。

認知症対策は「元気なうち」しかできない

任意後見制度は、まだ自身の判断力がある人が、判断力が低下した時に備えて、任意の後見人を選び、契約を結ぶものです。ポイントは、「誰に」「どんなことを頼むか」を自分で決めておけることです。法定後見よりも、自分の意思を表明でき、希望を実現しやすい方法といえます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

任意後見制度を利用してみたいと思ったら、まずは最寄りの「地域包括支援センター」や「社会福祉協議会」などに連絡を取り、相談してみましょう。

 

任意後見契約で依頼できること(例)

 

【財産の管理】
●自宅等の不動産の管理(賃貸契約・更新契約)
●金融機関との取引(預け入れ、引出しなど)
●年金の管理(入金確認・受取り)
●税金や公共料金の支払い(口座引落しの契約手続き、振込みなど)
●生命保険や火災保険の管理(保険料の支払い、保険金の受取り)
●重要書類(通帳、キャッシュカード、保険証書、不動産権利書など)の管理
●相続手続き(遺産分割協議の交渉や訴訟など)

 

【介護や生活面の手配】
●日常的な生活費の管理(生活費を届ける・送金する)
●住民票、戸籍など各種手続きに必要な書類の受取り
●要介護認定の申請等に関する各種手続き
●介護サービス提供機関との契約の締結、費用の支払い
●医療契約の締結、入院の手続や費用の支払い
●老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為
●必要な品物の購入・支払い

 

※後見人の仕事は本人の財産をきちんと管理し、介護や生活面のサポートをすることです。おむつを替えたり、掃除をしたりする行為ではなく、介護や生活面の手配をすることです

 

任意後見契約が開始するのは、本人の判断力の低下が認められたときです。具体的な手続きですが、まず後見人を引き受けた人(任意後見受任者)や親族が、家庭裁判所に本人の判断能力が衰えたことを報告し、「任意後見監督人」を選任してほしい旨の申立てをします。そして、任意後見監督人が選任された段階で、後見人は、財産の管理や介護や生活面の手配など、契約に定められた仕事を始めることができます。

 

任意後見契約までの流れ

 

なお、任意後見人の契約はしたものの、元気なまま寿命を全うする人もいます。その場合、契約は履行されずに終了します。

 

また高齢になると、認知症ではないが、病気や事故で体が不自由になってしまうことがあります。そうした場合に備えて、任意後見契約とは別に、「財産管理等委任契約」を結んでおくのが安心です。

独身でも活用しやすい…「任意後見」ならではの柔軟性

法定後見制度の場合、誰が後見人になるかは家庭裁判所の判断に委ねられるため、第三者が選任されるのを嫌って家族が利用を見送るケースがあります。

 

その点、任意後見では信頼できる親族や信頼する友人知人を選ぶことができるので、合意さえ得られれば契約を結ぶことができます。また、周りに信頼できる人がいない、親族がいても迷惑をかけたくないと考える人などは、弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門家などに依頼することもできます。

 

任意後見契約は、法律によって公正証書で行うこととされています。それは、法律的な仕事に精通する公証人のもとで、本人の意思を確認し、契約内容がきちんと法律に従ったものとなるようにするためです。実際、公証人から任意後見契約の内容に関して、適切なアドバイスをもらえることも少なくありません。

 

後見がスタートすると、最初に法務局で任意後見人の登記を行い、氏名や代理権の範囲が明記された「登記事項証明書」の交付を受けます。この証明書を金融機関や役所などに提示することによって、自分の代理権を証明することになります。つまり、この証明書がなければ、本人のための事務処理を行うことはできません。

 

任意後見契約は、前述したとおり判断能力が低下した場合に備えた契約です。そのため、体が不自由になった場合に備えて「財産管理等委任契約」を検討する必要があります。

 

また、任意後見契約を結んでも、認知症になったことを本人が自覚しなければ契約は開始されないため、家族以外の人に後見人を頼んだ場合は、同時に定期的に本人と連絡をとったり、訪問して様子を確認する「見守り契約」を結んでおくことをおすすめします。そうすることで、任意後見人が定期的に面会し、コミュニケーションを取りつつ、健康状態を確認してくれます。後見が必要だと判断した場合、後見人はすぐに監督人をつけてもらう手続きを行うことで、契約を履行することができます。

 

 

 

【監修】奥田 周年
OAG税理士法人 取締役
税理士、行政書士

 

【協力】IFA法人 GAIA 成年後見制度研究チーム

 

【編集】ビジネス教育出版社 『暮らしとおかね』編集部

 

 

 

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親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

監修:奥田 周年
執筆協力:IFA法人 GAIA
編集:『暮らしとおかね』編集部

ビジネス教育出版社

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