兄は堅実なサラリーマン生活を送り、定年退職。弟は人間関係に躓いて以降、母親の収入を頼りに引きこもり生活。弟は、90代となった母親の年金と預貯金を握って離さないうえ、遺言書まで書かせており、母親自身もなすすべがない状態です。将来を心配する兄が資産状況を尋ねても、両者からはスルーされ続け…。どうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

冷静な口調ながら、兄は積年の不満を隠さず…

「弟はあのような状況ですから、実家を渡すのは構いません。私には自宅マンションもありますし、妻とも計画的に老後の人生設計を立ててきました。ですから、生活に困っていて親の財産がほしいとか、そういう話ではないのです」

 

 

「もちろん、弟のことは心配ですし、これまでも気にかけてきたつもりです。でも、弟がやっていることはどうなのでしょうか? 高齢の母の面倒を看ることもなく、自室にこもってばかりです。おまけに母のお金を握って離さないなんて、あんまりです」

 

「母が納得しているなら仕方ありません。とはいえ、2人の今後の生活のこともあるわけですから、少なくとも現状や遺言の内容について、私にも知る権利があると思います」

 

永井さんの口調は冷静ながら、大きな不満があることは明らかでした。

 

永井さんは母親の資産状況も遺言書の内容も知らず、弟はそのすべてを把握・コントロールできる状況にあります。永井さんはこれまで何度も弟に詳細を尋ねていますが、一切答えてもらえません。母親に聞いても「昔のことなのでよく覚えていない」というばかりで、のれんに腕押し状態です。そのため、相続時に問題が起こるのではないかと心配し、事前に打つ手はないかと、筆者のもとを訪れたとのことです。

兄の働きかけで弟の態度も軟化…遺言書は作り直しに

もし、母親が弟に促されて遺言を作成し、その内容が弟に有利なものだったとしても、法的には無効とはなりません。しかし永井さんの心情を察すると、このまま相続を迎え、遺言を執行するのはよくないと考えました。そのため筆者からは、もう一度遺言を作り直してみたらどうかと提案しました。

 

遺言はあとから作ったものが有効になります。永井さんの母親は、意思判断能力があるため、もう一度遺言を作るチャンスがあるので、遺言の作成は可能です。

 

しかし、弟を交えることなく一方的に再作成しては、最初の遺言と同じことになり、兄弟間の争いが起こるのは必至です。そのため、弟を含め、全員で相談することが大切であるとお話しました。

 

提案当初、弟とのコンタクトが取れず、遺言作成は難航しました。しかし、永井さんがあきらめることなく何度も働きかけるうち、次第に弟との心の距離が近くなり、コミュニケーションが取れるようになりました。

 

現在は母親も交えた話し合いをしながら、公正証書遺言の作成を進めています。

 

「家族で打ち合わせて、母親の資産状況も明らかになりました。弟はいま60代半ばですが、母親に何かあっても、自宅と母親の預貯金でなんとか生きていけそうです。弟の国民年金は両親が払ってくれていたので、ほぼ満額受け取れますし、恐らくなんとかなると思います。その代わり、私は相続放棄するつもりです」

 

永井さんは長年の疑念が晴れたためか、すっきりとした明るい表情になっていました。

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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