親の面倒を看ることを条件に、自宅3階部分を長男夫婦名義とした実家ですが、妻の母親が倒れたことがきっかけで別居することに…。ところが、次女が60代で離婚。母の面倒を看るために同居し、いずれは実家がほしいとの申し出に、長女は無関心も、妻の事情で家を出ている長男は納得できません。きょうだい3人で不満なく財産を分割するにはどんな方法があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
①法定相続分通り、不動産を分ける場合
3人とも、持分3分の1の共有名義となります(土地、建物2階)
②次女が相続する場合
次女が持分1/1。ただし、長女と長男には遺留分が発生します(各1/6、833万円)。
③相談者である長男が相続した場合
②と同様、長男が持分1/1。ただし、長女と次女には遺留分が発生します(各1/6、833万円)。
筆者が着目したのは次の2点です。
①平井さん名義の3階は相続に無関係である点
3階はすでに平井さんの名義になっていて、相続が発生しても影響がない状態です。そのため、相談者である長男以外が相続すると、建物全体として考えたとき、共有名義と同じようになってしまいます。また、土地と建物の名義が同一でなくなるので、売却の際に手続きが煩雑となり、買い手自体が見つかりにくい可能性があります。
②収益が見込める不動産である
1階は貸駐車場として、現在100%稼働の状態です。また、平井さん夫婦の所有である3階も現在は賃貸中です。合計で、年間300万円超の収益があります。満室になっていることから、立地的に、2階も賃貸需要が見込める物件と考えます。
以上の2点から、平井さんが単独名義で相続し、相続時点で現金約3,300万円を所有しているなら、姉2人に約1,666万円ずつ支払い(代償分割)、そうでないならば、1、2、3階の賃料を分配する方法を提案しました。
平井さんは、筆者の提案について、
「納得しました。前向きに次女と話し、仲良くやっていきたいです」
「もうすぐ私は定年なので、退職したら母親のもとに頻繁に通い、これまでできなかった分面倒を看たいです」
と気持ちを語られました。来所されたときの険しい面持ちはすでになく、柔和な表情が印象的でした。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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