2020年7月分鉱工業生産指数・速報値について

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

新型コロナの影響から回復、鉱工業生産・前月比+8.0%と2ヵ月連続上昇

 

8月分生産予測指数・前月比は+4.0%の上昇。経産省試算値は▲1.7%

 

経産省判断「生産は下げ止まり、持ち直しの動き」から「持ち直しの動き」に

 

 

 (鉱工業生産)

 

●鉱工業生産指数・7月分速報値・前月比は+8.0%と2ヵ月連続の上昇になった。前月比は15年1月の+3.0%を上回る15年基準で最高の上昇幅になった。新型コロナウイルス感染症の影響から停滞した経済活動の回復基調が続いたことがわかる。季節調整値の水準は86.6で20年3月の95.8以来の水準になった。15年基準内では4番目の低水準で、依然低い生産水準にとどまっている。前年同月比は▲16.1%で10ヵ月連続の低下となったが6月分の▲18.2%からマイナス幅は縮小した。

 

●7月分鉱工業生産指数では、自動車工業と、乗用車用タイヤ・工業用ゴム製品等の寄与が大きかった、その他工業の上昇寄与が大きかった。15業種中、12業種が前月比上昇、3業種が前月比低下という結果だった。

 

●経済産業省の基調判断は20年1月分・2月分では「総じてみれば、生産は一進一退ながら弱含んでいる」だったが、3月分で「総じてみれば、生産は低下している」と下方修正された。さらに下方修正され、4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」。前回6月分では、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。今回7月分では、下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。

 

●先月発表された製造工業予測指数7月分は前月比+11.3%の上昇の見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、7月分の前月比は先行き試算値最頻値で+3.1%の上昇になる見込みであった。90%の確率に収まる範囲は+2.1%~+4.1%になっていた。実際には、鉱工業生産指数の前月比が+8.0%になったわけだが、これは試算値の上限を大幅に上回る伸び率である。

 

●7月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+6.0%と2ヵ月連続の上昇になった。上昇率は15年基準で最大である。前年同月比は▲16.6%で10ヵ月連続の低下となった。

 

●7月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲1.6%と4ヵ月連続の低下になった。前年同月比は▲4.9%と3ヵ月連続の低下となった。4月・5月と、感染拡大防止のための工場の稼働の低下、操業停止などで結果として大幅な生産調整が行われたことになり、在庫の前月比、前年同月比のマイナスにつながった。緊急事態宣言の影響がなくなった6月分・7月分の生産がしっかりした前月比プラスになった要因のひとつである。

 

●7月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲8.8%で6月分の同▲7.1%に続き2ヵ月連続大幅な低下になった。低下率は15年基準で最も大幅である。

 

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期以降、45度線を上回って推移し、概ね「在庫積み上がり局面」が続いていた。19年10~12月期、出荷の前年同期比が▲6.5%、在庫が同+1.2%、20年1~3月期、出荷の前年同期比が▲5.2%、在庫が同+2.9%と、どちらも「在庫調整局面」であった。20年4~6月期は、出荷の前年同月比が▲19.9%、在庫が同▲3.4%と、出荷は大幅に減少したものの在庫調整がさらに進んだ。20年7月は、出荷の前年同月比が▲17.1%、在庫が同▲4.9%と、引き続き「在庫調整局面」の状態にある。

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると8月分は前月比+4.0%の上昇、9月分は前月比+1.9%の上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、8月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.7%の下降になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲2.6%~▲0.7%になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数、8月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.7%)、9月分を製造工業予測指数前月比(+1.9%)、7~9月期の前期比は+5.3%の上昇になる。また8月分・9月分を製造工業予測指数前月比(+4.0%、+1.9%)で延長したケースでは、7~9月期の前期比は+9.4%の上昇になる。順調にいくと7~9月期は2四半期ぶりに前期比上昇になり、持ち直しが期待される状況だ。

 

(7~9月期のGDP関連データ)

 

●7~9月期の鉱工業生産指数の見通しがプラスであるように、実質GDPも前期比年率▲27.8%と大幅なマイナスになった4~6月期の反動から7~9月期は水準は低いものの、伸び率はプラス転換が予想される。ちなみに8月のESP フォーキャスト調査では7~9月期の実質GDP前期比年率+13.26%が予測平均値だ。現行統計(平成23年基準)で遡れる80年4~6月期以降で実質GDPが前期比年率2ケタの増加になったのは、87年10~12月期+11.2%、89年10~12月期+12.0%、90年4~6月期+11.0%、11年7~9月期+10.3%だけで、ESP フォーキャスト調査の予測平均値になれば、過去最高を更新することになる。7月分の生産関連指標などは、そうした予測を裏付ける内容になった。

 

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7月分対4~6月平均比は+37.7%の増加になった。同じく供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同+0.3%の増加だ。また、商業販売額指数・小売業の7月分対4~6月平均比は+5.3%の増加になった。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の4~6月期から7~9月期へのゲタは+8.6%の増加である。乗用車販売台数の7月分対4~6月平均比は+31.2%の増加になった。GDP統計の実質個人消費(家計最終消費支出)と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)4~6月期から7~9月期へのゲタは+5.4%の増加である。総合的に考えると、新型コロナウイルス感染症対策での自粛などにより大幅に落ち込んだ4~6月期の反動で、7~9月期第1次速報値の個人消費は、前期比で大幅増加になる可能性が大きいだろう。

 

●設備投資の関連データである資本財(除.輸送機械)出荷指数の7月分対4~6月平均比は+0.2%の増加になった。また、建設財は同 +0.3%の増加になった。総合的に考えると、最終的に供給サイドから推計される4~6月期の実質設備投資は前期比増加になる可能性が大きいとみられる。

 

●実質輸出入の動向をみると輸出の7月分対4~6月平均比は+6.4%の増加になった。控除項目の輸入は同▲7.4の減少になっている。7月のモノ分だけでみると、7~9月期の外需の前期比寄与度はかなりのプラスになる可能性が大きいと判断できる。

 

(7月分の景気動向指数・速報値予測)

 

●7月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+2.9程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差プラスに、新規求人数、新設住宅着工床面積、東証株価指数の3系列が前月差マイナスになると予測した。

 

●7月分の一致CIは前月差+1.5程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の5系列が前月差プラスになると予測した。投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の3系列が前月差マイナスになると予測したた。先行き生産関連指標が緩やかながらも上昇基調になれば、一致CIの直近のボトムは5月になる可能性が大きい。

 

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、19年5月分~7月分は「下げ止まり」の判断だったが、19年8月分で「悪化」に下方修正された。19年8月分~20年6月分に続き、7月分も「悪化」継続になると予測する。3ヵ月後方移動平均の動向から見ると、8月分で「下げ止まり」に転じる可能性があるとみられる。

 

●7月分の先行DIは88.9%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列がプラス符号に、新設住宅着工床面積1系列がマイナス符号になると予測した。

 

●7月分の一致DIは75.0%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の6系列がプラス符号に、投資財出荷指数、有効求人倍率の2系列がマイナス符号になると予測した。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年7月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

(2020年8月31日)

 

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト
 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 理事・チーフエコノミスト

旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。
パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできている。「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」など政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。
著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

著者紹介

連載【宅森昭吉・理事・チーフ エコノミスト】エコノミックレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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