「無理な栄養摂取は虐待」日本医療が抱える、介護と延命の難題

高齢者の介護では、衰弱していくにつれ、口からの栄養摂取が辛くなることは珍しくありません。いうまでもなく、生命維持には栄養摂取が必須ですが、当の高齢者からすると体自体が食物を受け付けず、食事が苦痛となっている場合もあります。家族としては、なんとか栄養を摂ってほしい一方で、苦しむ姿を見たくないと大いに悩みます。いったいどうすべきなのでしょうか?※本記事は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

要介護の親が「食べられない」段階に来たら?

以前の記事『「皆寝たきり」老後のリアル…人生100年時代で問うべき“最期”』では、「高齢の親が家にいられる」ことと「介護をする家族にも負担が少ない」ことを両立するためのポイントとして、次の10項目を紹介しました。

 

【ラクゆる介護10のポイント】

①在宅医療…「親が家で暮らせる」ことを最優先。不安から治療・入院を急がない

②家族の介護…介護保険サービスを活用し、家族の介護は「50点」でいい

③食事…食事は配食サービスでもいい。塩分・糖質・カロリーは気にしすぎない

④移動…歩きたい人は自由にさせる。転倒を必要以上に恐れない

⑤排泄…トイレやおむつは、介護する人が「夜に眠れる」方法を考える

⑥認知症…認知症が出てきたときは、「否定」をせず、「話を合わせる」

⑦経管栄養…口から食べられなくなったときの選択肢を知っておく

⑧延命治療…苦しいだけの延命治療、無用な救急搬送は、できるだけ避ける

⑨看取りの方針…看取りの方針で意見が割れたら、「本人の希望」に戻る

⑩看取りの実際…「臨終に立ち会わなければいけない」という思い込みを捨てる

 

以前の記事『暴力、暴言、目を離せば徘徊…認知症の親にどう接するべき?』では、ポイント⑥を解説しました。本記事では⑦について詳述します。

生命維持のためでも、「無理な栄養摂取」は虐待行為

ラクゆる介護のポイント⑦【経管栄養】

口から食べられなくなったときの選択肢を知っておく

 

歳をとって衰弱が進んでくると次第に食が細くなり、口からの食事では十分な栄養をとれなくなる場合があります。ご家族からすれば心配になるのは当然で、何とか食べさせよう、栄養をとらせようと苦心される方も多いと思います。

 

実は、人が老いて亡くなるまでの過程において、食事を口から食べられなくなることも一つのプロセスです。世界的に見れば「口から食べられなくなったら、それでおしまい」という国も多くあります。日本も今から50~60年前までは、そういう感覚の人が多かったのではないでしょうか。

 

高齢者ケアの先進国である欧州などでは、食べられなくなった人に無理に食べさせたり、栄養を与えたりするのは高齢者への虐待行為と捉えられるようになっています。

 

しかし現在の日本では、食べられなくなった人に対してどう対応すべきか、医学的に明確な基準もありませんし、社会的なコンセンサスも得られていません。

 

そのため、ご家族が医師から「どうしますか?」と意見を求められることも多く、ご家族のほうが混乱してしまうケースも多くなっています。

 

先進国では、「食べれられなくなった要介護者」に無理やり栄養摂取させることは虐待行為(※写真はイメージです/PIXTA)
「食べられなくなった要介護者」にどう対応すべきか?日本医療の問題(※写真はイメージです/PIXTA)

食べられなくなったときの選択肢、4つ

高齢者が在宅療養をされるときには「まだ早い、縁起でもない」と言わずに、口から食べられなくなったときの選択肢をご家族も知っておくといいと思います。選択肢は、大きく次の4つです。

 

①何もしない。

②末梢点滴だけを行う。

③体につけた管から栄養を与える「経管栄養」を行う。

④中心静脈栄養を行う。

 

①は特別なことはせず、見守るということです。もし酒だけは飲めるとか、アイスクリームだけは食べられるという人は、口にできるものをとっていてかまいません。

 

好物も水分も何もとれないという段階になったら、無理に与える必要はありません。飲まず食わずでは、喉が渇いたりして辛いのではと想像しがちですが、体が食物を受け付けなくなっている人はそれで苦痛を感じることはありません。終末期の高齢者にとっては、これがいちばん自然で無理のないケアだと思います。

 

次の②は、点滴で水分を少量ずつ体に入れるという方法です。認知症の高齢者では食事を食べたり食べなかったりすることがありますが、そうした低栄養や脱水の危険があるときにも点滴を行うことがあります。点滴で水分を補っているうちに食欲が戻り、また食べられるようになる人もいます。

 

また終末期になり、食事を受け付けなくなった人に何もしないでいるのは気の毒で辛い、というご家族の要望で点滴を行う例もあります。

 

点滴だけでも何もしない場合に比べれば、生きられる期間は少し延びます。ただし点滴の量が合っていないと、痰が増えたりむくみが出るなどして、かえって苦しい思いをさせることがあります。希望されるときは主治医とよく相談をしましょう。

生きる気力はあるが、口から栄養摂取ができない場合

③の経管栄養は、大きく2つの方法があります。鼻につけたチューブから栄養を入れる「経鼻経管栄養」と、胃に開けた孔から栄養を入れる「胃ろう」です。

 

ご本人にも生きる意欲があり、口からは食べられないけれども栄養をとらせてあげたい、というときにはこうした経管栄養や、④の中心静脈栄養が選択肢になります。

 

経管栄養、特に胃ろうは、最近では死にゆく人を無理に生かす延命治療というイメージが強くなっていますが、一時的に食事がとれなくなったような場合、胃ろうで栄養を与えると、筋力が戻って歩けるようになったり、再び口から食事をとれるようになるケースもあります。

 

鼻から栄養を入れる経鼻経管栄養は、顔にチューブをつけるのでわずらわしいですし、気管に入るなどの誤嚥のリスクもあります。胃ろうのほうがリスクは少なく管理もラクですから、経管栄養を考えるときはむしろ胃ろうをおすすめします。

 

最後の4つめは「中心静脈栄養」です。これは血管に直接高カロリー輸液を入れる方法です。消化管を使わずに血管に栄養を入れるので、胃腸などの消化器官の機能に異常がある人でも長期間命をつなぐことができる方法です。

 

経管栄養や中心静脈栄養は、ご本人の希望や、人工栄養を始めた後の経過などについて、やはり医師とよく話し合いをして判断されることをおすすめします。

 

【ラクゆる介護のポイント⑧~⑩】については、次回以降に詳述します。

 

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

1972年、東京大学に入学後、医学を志し1976年に名古屋大学に再入学。1982年、名古屋大学医学部卒業。袋井市民病院、中津川市民病院に勤務ののち、市立四日市病院、臨港病院等で消化器科部長を歴任。1996年に井上内科クリニックを開院、同時に在宅医療をスタート。

2001年からは地域に根ざした医療・介護の担い手として「デイサービスセンターほほえみ(現・デイケアほほえみ)」の運営に着手し、2020年現在、同グループは訪問看護ステーション、住宅型有料老人ホーム等14事業所を手がける。

クリニックおよびグループ全体で「『その人らしく』を最後まで」を理念に、患者と家族の在宅生活・在宅介護のサポートを続けており、在宅での看取り実績は累計1,000人以上。

著者紹介

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