在宅介護=「家族が身を粉にして頑張るもの」ではない
歳をとって要介護になったとしても、高齢者にとっていちばん安心できる場所は自宅です。体は不自由になっても、何より自分らしくいられるのが自宅だからです。私は、要介護の高齢者が家で過ごせる在宅医療を、もっと多くのご家族に知っていただきたいと思っています。
ただし、「高齢の親が家にいられる」ことと「介護をする家族にも負担が少ない」ことを両立するためには、いくつかのポイントがあるとも感じています。
本書『大切な親を家で看取るラクゆる介護』第3章では、在宅医療を続けるための心得のようなものを、10の項目にまとめて紹介します。これは若い頃の病院勤務を経て、在宅医療に携わって20年余りの私の経験から、高齢者を介護するご家族にお伝えしたいことでもあります。
なかには一般的な医療の“常識”と異なる部分もあるかもしれませんが、超高齢社会の日本で「老い」や「自然な最期」を考えるきっかけにしていただければ幸いです。
【ラクゆる介護10のポイント】
①在宅医療…「親が家で暮らせる」ことを最優先。不安から治療・入院を急がない
②家族の介護…介護保険サービスを活用し、家族の介護は「50点」でいい
③食事…食事は配食サービスでもいい。塩分・糖質・カロリーは気にしすぎない
④移動…歩きたい人は自由にさせる。転倒を必要以上に恐れない
⑤排泄…トイレやおむつは、介護する人が「夜に眠れる」方法を考える
⑥認知症…認知症が出てきたときは、「否定」をせず、「話を合わせる」
⑦経管栄養…口から食べられなくなったときの選択肢を知っておく
⑧延命治療…苦しいだけの延命治療、無用な救急搬送は、できるだけ避ける
⑨看取りの方針…看取りの方針で意見が割れたら、「本人の希望」に戻る
⑩看取りの実際…「臨終に立ち会わなければいけない」という思い込みを捨てる
病院ではできない、「その人らしさ」を尊重する医療
それでは、個々の内容について紹介していきます。
ラクゆる介護のポイント①【在宅医療】
●「親が家で暮らせる」ことを最優先。
●不安から治療・入院を急がない
最初に挙げておきたいのは、在宅医療の方針についてです。以前の記事『「家に帰りたい」余命宣告された男性…家族が下した最良の決断』でも触れましたが、最近は、在宅で使用できる医療機器なども進化しており、在宅でも外来とほとんど変わらない検査・治療を行うことができます。
しかし、在宅医療と病院の医療には、根本的に大きな違いがあります(『【画像】病院医療と在宅医療の違い』を参照)。病院の医療というのは、いってみれば緊急事態に出動する軍隊や警察のようなものです。人の命をおびやかす事態が起きたとき、病院の医師やスタッフは「亡くなるのを避ける」ことを最優先して治療をします。そのために患者さん個人の心情や生活などは、あまり顧みられることはありません。
また病院では、医師を頂点としたヒエラルキーがあります。病院での治療は医師がリードして方針を決め、患者や家族は黙ってそれに従う。まだまだそうした上下関係が残っているところがあります。高齢者やご家族が治療に疑問を感じても、病院の主治医には本音が言いにくいのではないでしょうか。
それに対して在宅医療は「亡くなるまでの間の日常生活を支える」ものです。ただ死を避けることだけが目的なのではなく、いかにその人の生活をサポートするかを重視する医療です。私のクリニックも「“その人らしく”を最後まで」を理念としています。ですから在宅では、高齢者や患者さんが治療を望むときはそれに応じますが、「もう治療はしたくない」というのであれば、治療をしなくてもOKです。痛みや苦しさがあるときはそれを取り除きながら、ラクに生活ができるようにします。
在宅医療では主体になるのは患者さんとご家族です。医師が主導する病院の医療とはちょうど真逆です。そして患者さんのそばに介護をするご家族がいて、さらにその後ろで医師やスタッフがチームとなってサポートをする。そんなイメージが在宅医療です。