●米実質金利のマイナスなどで米ドル安が進行したが一方的にドル安・円高が進んでいる訳ではない。
●通貨先物取引では、ドル売りの相対通貨としてユーロが選好され、直物もユーロ高・ドル安が進行。
●日本円も減価しドル円は小動き、米ドル安は進みやすい環境だが進行速度が鈍化する可能性も。
米実質金利のマイナスなどで米ドル安が進行したが一方的にドル安・円高が進んでいる訳ではない
8月5日付レポート『米ドルの実質実効為替レート』では、足元の米ドル安進行の理由として、①米国の実質金利がマイナス圏に沈んでいること、②米連邦準備制度理事会(FRB)が世界の金融市場に米ドルを大量供給していること、をあげました。ただ、ドル円相場については、一方的にドル安・円高が進行している訳ではありません。今回のレポートでは、この背景を探ります。
はじめに、通貨先物の投機筋ポジションを確認します。通貨先物とは、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の1部門であるインターナショナル・マネー・マーケット(IMM)に上場されている金融商品で、投機筋のポジションとは、非商業部門の買いと売りのネット建玉(たてぎょく、未決済残高のこと)枚数を指します。これらのデータは毎週火曜日に米商品先物取引委員会(CFTC)へ報告され、当該週の金曜日に公表されています。
通貨先物取引では、ドル売りの相対通貨としてユーロが選好され、直物もユーロ高・ドル安が進行
次に、通貨先物のうち主要4通貨(日本円、ユーロ、英ポンド、豪ドル)について、投機筋のポジションを確認します。年初からの推移を示したものが図表1ですが、足元でユーロの買い越しが非常に大きく積み上がっている一方、日本円など他の3通貨の動意は総じて乏しいことが分かります。つまり、通貨先物取引では、ドルを売る際の相対通貨として、ユーロが顕著に選好されていると推測されます。
なお、通貨先物の投機筋ポジションは、一般に投機筋の取引動向を示す数字とされていますが、ヘッジファンドなど、ポジションが公開されることを好まない向きもあるため、必ずしも投機的な取引動向を全て正確に反映するものではありません。ただ、一般に注目度が高く、為替相場をみる上では重要な指標です。実際、ユーロドルの動きを見ると、長期下降トレンドの上抜けを試すほど、大幅にユーロ高・ドル安が進んでいます(図表2)。
日本円も減価しドル円は小動き、米ドル安は進みやすい環境だが進行速度が鈍化する可能性も
なお、日本円については、4月30日から8月25日までの期間において、主要33通貨のうち、米ドルや香港ドルなど7通貨を除く26通貨に対し円安が進みました。つまり、米ドル安が進行しても、日本円も対主要通貨で減価したため、弱い通貨同士のペアであるドル円は、小幅なドル安・円高にとどまったということになります(同期間の円の対米ドル上昇率は0.72%)。
米ドル安が進みやすい環境は当面続くと思われますが、極端なドル安・円高にはつながりにくいとみています。なお、相場には、市場参加者が皆同じ方向(例えば今回のような米ドル安)を予想すると、その方向の動きは終わってしまう傾向があります。また、米ドル安の受け皿となってきたユーロも、図表2の通り、1ユーロ=1.20ドル近辺では達成感が出る可能性もあるため、今後、米ドル安の進行速度が鈍化することも考えられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米ドル安とドル円相場』を参照)。
(2020年8月26日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
シニアストラテジスト