●実質実効為替レートとは貿易量や物価水準を基に算出された通貨の実力を測る総合的な指標。
●4月末以降、米ドルと主要通貨、それぞれの名目為替レートをみると、31通貨が対米ドルで上昇。
●実質実効為替レートもドル安に、米実質金利のマイナスや米ドル供給増で、ドル安地合い継続へ。
実質実効為替レートとは貿易量や物価水準を基に算出された通貨の実力を測る総合的な指標
実質実効為替レートとは、ドル円やユーロ円など、特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です。具体的には、ある通貨と、対象となる全通貨との2通貨間為替レートについて、貿易額などで計った相対的な重要度でウエイト付けし、さらに、それぞれの物価変動分を調整して集計・算出します。
ある通貨の実質実効為替レートの上昇は、その通貨の増価(通貨高)を意味し、反対に下落は減価(通貨安)を意味します。例えば、米ドルの実質実効為替レートが10%下落した場合、同じ財やサービスを海外で購入する場合、米ドル換算での支払い負担は10%増すということになります。ここでの米ドルの減価は、1つの通貨に対するものではなく、米国と貿易取引のある国や地域の通貨に対するものとなります。
4月末以降、米ドルと主要通貨、それぞれの名目為替レートをみると、31通貨が対米ドルで上昇
このところ、為替市場では、対主要通貨での米ドル安の進行が注目されています。そこで、4月30日から8月4日までの期間において、主要33通貨について対米ドルの騰落率を確認したところ、アルゼンチンペソとペルーソルを除く31通貨が対米ドルで上昇していました。このうち、10通貨の上昇率を示したものが図表1です。なお、日本円は対米ドルで上昇していますが、オーストラリアドルやユーロなどに対しては下落しています。
これらは、米ドルと各通貨それぞれの、名目為替レートの変化を示したものですが、次に米ドルの実効為替レートの動きを検証してみます。米ドルの実効為替レートは、米連邦準備制度理事会(FRB)や、国際決済銀行(BIS)が公表していますが、いずれも日次ベースのデータが得られるのは物価変動調整前の名目実効為替レートであり、物価変動調整後の実質実効為替レートは月次データのみとなります。
実質実効為替レートもドル安に、米実質金利のマイナスや米ドル供給増で、ドル安地合い継続へ
FRBとBISで比較可能な期間における米ドルの実効為替レート(広義の貿易相手国ベース)の騰落率をみると、4月30日から7月28日までの名目実効為替レートは、FRBがマイナス4.1%、BISはマイナス3.6%となりました。名目為替レートで米ドルがほぼ全面安となっていたため、特に違和感のない結果です。一方、実質実効為替レートについても、FRB、BISとも4月から6月に2.8%下落しました。
一般に、物価は2~3ヵ月の短い期間で、大きく変動することはまれであるため、これも違和感のない結果といえます。なお、足元のドル安進行は、米国の実質金利がマイナス圏に沈んでいることに加え、FRBにより世界の金融市場に米ドルが大量供給されたことも大きいと思われ、これはワールドダラーの急増で確認できます(図表2)。そのため、為替市場では、しばらく米ドル安の地合いが続くことも予想されます。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米ドルの実質実効為替レート』を参照)。
(2020年8月5日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト