●FRBは新たな政策指針を発表、2%超の物価上昇容認と広範かつ包括的な最大雇用を目指す。
●これを受け米国市場では長期金利が上昇、為替はドル高・円安、金融株は上昇、GAFAは下落。
●米国は金融緩和長期化で、リスク資産には好ましい環境へ、来月FOMCではドットチャートも注目。
FRBは新たな政策指針を発表、2%超の物価上昇容認と広範かつ包括的な最大雇用を目指す
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月27日、オンライン形式の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)において、金融政策の新たな指針を発表しました。ほぼ同時に、米連邦公開市場委員会(FOMC)も声明の形で指針を公表しました。まず、物価目標について、従来の2%を「一定期間の平均で2%」に変更し、物価が2%を下回る期間が続いた後は、しばらくの間、適度に2%超の物価上昇を目指すとの考えを明らかにしました。
次に、雇用について、雇用の最大化は広範かつ包括的な目標であり、政策決定は雇用の最大水準からの「乖離」ではなく、「不足分」を基に決定されると明記されました。これは、低・中所得者層に配慮した変更であり、彼らのために堅固な労働市場を維持しても、すなわち、低い失業率が続いても、物価の急騰を招く恐れは、以前よりも小さくなったとの見方が示されました。
これを受け米国市場では長期金利が上昇、為替はドル高・円安、金融株は上昇、GAFAは下落
今回の新たな指針は、金融緩和の長期化を示唆する内容であったことから、発表直後、米10年国債利回りは、低下で反応しました(図表1)。しかしながら、時間の経過とともに、金融緩和の長期化による景気の押し上げ効果を織り込む形で、米10年国債利回りは水準を切り上げました。為替市場では、ドル円がほぼ米10年国債利回りに連れた動きとなり、いったんドル安・円高で反応した後、ドル高・円安方向に転じました。
株式市場では、ダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数が小幅に上昇した一方、ナスダック総合株価指数は下落しました。米10年国債利回りの上昇を受けて、金融株の上昇が目立った一方、これまで堅調に推移していたアップル、アマゾン・ドット・コム、アルファベット(グーグルの親会社)、フェイスブックの巨大ハイテク企業、いわゆる「GAFA」は、そろって下落しました。
米国は金融緩和長期化で、リスク資産には好ましい環境へ、来月FOMCではドットチャートも注目
新たな指針について、物価目標については、おおむね市場の想定範囲内だったように思われます。これにより、来月のFOMCで、フォワードガイダンス(金融政策の先行きに関する指針)を修正しやすくなったとの見方も出ています。なお、FRBが参照している個人消費支出(PCE)物価指数について、エネルギー・食品を除くコア指数を見る限り(図表2)、金融緩和は相当長期にわたって継続される可能性が高いと思われます。
そのため、米国では低金利の官製相場という、株式などのリスク資産にとっては、好ましい環境が続くと考えられます。なお、来月のFOMCは、9月15日、16日に開催されますが、新たに2023年の経済見通しとドットチャート(FOMCメンバーが適切と考える政策金利水準の分布図)が公表される予定で、金融緩和の持続性を見通す上での重要な手掛かりが示されることになります。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『FRBは物価2%超を容認~市場へのインプリケーションを考える』を参照)。
(2020年8月28日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
シニアストラテジスト