英国コロナ奇策「積極的な集団感染」が“科学的”だったワケ

新型コロナウイルスの猛威は衰えを知らず、第2波、第3波の到来も危惧される状況が続く。この時勢、パンデミック客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実態を明らかにした神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授が提言する「病の存在」は、まさに今議論されるべきテーマと言えるだろう。本連載は、岩田健太郎氏の著書『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋した原稿です。

英国は初動コロナ対応に失敗も、科学的であり続けた

英国がCOVID19対策で、他国と異なる対応を取ると表明したとき、世界は驚いた。国民の多くにあえて感染を許容させ、集団免疫をつけさせようというのだ。かなりの「奇手」と思った。

 

ところが、事態は二転三転する。この感染許容策に多くの専門家が批判を寄せた。議論が繰り返され、結局、英国は他国同様、保守的で「普通の」感染対策を行うことを表明したのである。完全な方針転換であった。

 

二転三転する議論。日本であればこれを「失敗」と捉えるむきもあるだろう。しかし、ぼくはそうは思わない。むしろ、英国における「科学の健全さ」を証明したエピソードではないかと思う。

 

科学は失敗する。新しい問題に取り組むときは、特にそうだ。科学は無謬(むびゆう)ではない。研究活動とは、既存の世界観の外側に出ることを希求し、既知の概念を破壊し、未知の領域に新たな概念を創り出さんと望むことだ。その場合、失敗は必然的な結末だ。少なくとも、一定の確率でそれは起きる。それが起きないとすれば、それは既知の概念から一歩も外に出ていないのである。すなわち、科学的営為を行っていないのである。

 

だから、失敗するのは科学的失敗ではない。科学的失敗は、失敗そのものによって起きるのではない。失敗は認知され、評価され、吟味され、改善の糧とされ、そして未来の成功の燃料として活用されればそれでいいのだ。「失敗」と「科学的失敗」は意味が違う。「科学的失敗」とは、失敗の認知に失敗し、評価に失敗し、吟味に失敗し、改善に失敗し、未来の成功に資することないままに終わるような失敗を言う。これこそ本質的な失敗である。

 

英国は失敗した。初手の出し方において失敗した。しかし、失敗の認知には失敗しなかった。よって、科学的であり続けるという点においては一貫性を保っていた。「朝令暮改」が繰り返されるのは、科学的な一貫性の証左なのである。

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載「コロナは実在するのか」…感染症の第一人者が語る「病の存在論」

感染症は実在しない

感染症は実在しない

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

インフルエンザは実在しない!生活習慣病も、がんも実在しない!新型コロナウイルスに汚染されたクルーズ船の実態を告発した、感染症学の第一人者が語る「病の存在論」。検査やデータにこだわるがあまり、人を治すことを忘れてし…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧