暴力、暴言、目を離せば徘徊…認知症の親にどう接するべき?

平均寿命が伸びた日本では、寝たきり老人や認知症といった問題も増加傾向にあり、在宅介護の難易度が上がっています。特に認知症を抱えている場合は暴力や暴言に悩まされることも多く、いわゆる「問題行動」も様々で対処が難しいことから、介護家族は非常に大きな悩みとストレスを抱えがちです。とはいえ、認知症になっても自分を育ててくれた親ですから、敬愛すべき存在に違いありません。自宅で温かく介護を続けるには、どうすればよいのでしょうか。※本記事は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

「認知症の親」でも自宅療養・在宅看取りは可能?

以前の記事『「皆寝たきり」老後のリアル…人生100年時代で問うべき“最期”』では、「高齢の親が家にいられる」ことと「介護をする家族にも負担が少ない」ことを両立するためのポイントとして、次の10項目を紹介しました。

 

【ラクゆる介護10のポイント】

①在宅医療…「親が家で暮らせる」ことを最優先。不安から治療・入院を急がない

②家族の介護…介護保険サービスを活用し、家族の介護は「50点」でいい

③食事…食事は配食サービスでもいい。塩分・糖質・カロリーは気にしすぎない

④移動…歩きたい人は自由にさせる。転倒を必要以上に恐れない

⑤排泄…トイレやおむつは、介護する人が「夜に眠れる」方法を考える

⑥認知症…認知症が出てきたときは、「否定」をせず、「話を合わせる」

⑦経管栄養…口から食べられなくなったときの選択肢を知っておく

⑧延命治療…苦しいだけの延命治療、無用な救急搬送は、できるだけ避ける

⑨看取りの方針…看取りの方針で意見が割れたら、「本人の希望」に戻る

⑩看取りの実際…「臨終に立ち会わなければいけない」という思い込みを捨てる

 

以前の記事『「夜通しで排泄介助」在宅死を望む親、一瞬で生活崩壊する家族』では、ポイント④、⑤を解説しました。本記事では⑥を詳述します。

否定する、叱る・怒る、は逆効果

ラクゆる介護のポイント⑥【認知症】
認知症が出てきたときは、「否定」をせず、「話を合わせる」

 

認知症のある人の介護では、皆さんたいへん苦労をされるようです。私もこれまでに数多くの認知症の高齢者に接してきましたが、本当にいろいろな方がいます。認知症になって“やんちゃ”になったある高齢女性は、食事がとれておらず、家族の方が心配して訴えるので私が点滴をしようとすると、激しく抵抗し、しまいにはツバを飛ばしてきたりしていました。

 

また別の認知症の方は、ある日、クリニックの前の道路の真ん中に仁王立ちでじーっとたたずんでいて、車が通れずに交通渋滞になっていたこともあります。そのときは私が道路に出て、時間をかけて話をしてなんとか連れ帰ったものです。

 

このように、一般の感覚からすると理解できないようなことをするのが認知症の症状です。もとは頼れる存在であった親御さんのそういう姿を目の当たりにすると、息子さん、娘さんは驚き、ショックや戸惑いを感じるのでしょう、「何をやっているんだ」「しっかりしてくれよ」ときつく叱ったり、怒ったりしてしまいがちです。

 

しかし、そういう対応は実は逆効果にしかなりません。認知症の方は怒られたり責められたりすると、かえって不安や混乱が強くなり、暴力や暴言などの問題行動が悪化することがよくあります。

 

そもそも、おかしなことを言ったりしたりするのは、認知症によって脳の機能が落ち、本人にもよくわからないまま、そうなってしまうのです。

 

認知症のなかで最も多いアルツハイマー型認知症では、少し前に経験したことの記憶がそっくり抜け落ちることがあり、つい30分前に食事をしたばかりでも「食べていない」と言ったりします。さらに抜けた記憶を補うために、話を作ってつじつまを合わせようとするため、自分で財布を置き忘れたのに「盗られた」と話すこともあります。

 

また情動の抑制がききにくくなり、急に激しく怒ったり泣いたりする人もいますし、先の“やんちゃ”な女性のように、以前のその人であれば考えられなかったような、子どもじみた行動をとることもあります。

 

ほかにも、認知症の一つのレビー小体型認知症は、本当にそこに存在しているかのような、ありありとした幻覚(幻視)が見えるのが特徴で、誰もいない場所を指して「子どもがいる」などと言います。一日の中でも症状に変化があり、すごくぼんやりしていたかと思えば、比較的意識がはっきりしているときもあります。こうした脳の変化にいちばん混乱して困っているのは、当の認知症の本人なのです。

 

脳の変化に混乱して困っているのは、認知症の親本人
脳の変化に混乱して困っているのは、認知症の親本人(※写真はイメージです/PIXTA)

「話を合わせる」「ていねいに接する」ことが大事

では、介護する人はどうすればいいのでしょうか。認知症の人が話すことやすることを「そうじゃない」といちいち否定をせず、上手に話を合わせてあげてください。

 

誰もいないところに子どもがいるというときは、「そうなんだ、子どもがいるんだね」と応えればいいし、ご飯を食べたばかりなのに「食べていない」と言い張るときは、「そうだったね」と小さいおにぎりでも渡しておけばいいのです。

 

急に外に出ていってしまう徘徊も、ただ無闇に歩き回っているわけではなく「家に帰らなければ」とか「会社へ行く」など、それぞれ理由があって歩いています。周りから見ればどんなに不可解に思えることも、認知症の人にはそれが現実なのですから、そのことを認め、安心してもらえるような対応を心がけたいものです。

 

また認知症が出てきたとしても、急に何もかもがわからなくなるわけではありません。特に感情面は最後まで残るとされており、自分がぞんざいに扱われたとか、ばかにされたといったことは敏感に感じとり、それが介護の拒否や、問題行動につながることもあります。

 

私の患者さんにも、認知症で訪問時の診療を避けようとする人がいます。そういうときにも、認知症で何もわからないだろうといきなり体に触れたりするのは禁物です。私は「健康診断ですから、診させてくださいね」とていねいに断ってから診察をし、コミュニケーションを図るようにしています。

 

たとえ認知症になっても、人生の先輩であり、敬愛する親御さんであることは変わりません。尊敬の念をもち、温かく接しましょう。
 

 

【ラクゆる介護のポイント⑦~⑩】については、次回以降に詳述します。

 

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

1972年、東京大学に入学後、医学を志し1976年に名古屋大学に再入学。1982年、名古屋大学医学部卒業。袋井市民病院、中津川市民病院に勤務ののち、市立四日市病院、臨港病院等で消化器科部長を歴任。1996年に井上内科クリニックを開院、同時に在宅医療をスタート。

2001年からは地域に根ざした医療・介護の担い手として「デイサービスセンターほほえみ(現・デイケアほほえみ)」の運営に着手し、2020年現在、同グループは訪問看護ステーション、住宅型有料老人ホーム等14事業所を手がける。

クリニックおよびグループ全体で「『その人らしく』を最後まで」を理念に、患者と家族の在宅生活・在宅介護のサポートを続けており、在宅での看取り実績は累計1,000人以上。

著者紹介

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幻冬舎メディアコンサルティング

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