「負担なく続けられる在宅介護」の実現方法
以前の記事『「皆寝たきり」老後のリアル…人生100年時代で問うべき“最期”』では、「高齢の親が家にいられる」ことと「介護をする家族にも負担が少ない」ことを両立するためのポイントとして、次の10項目を紹介しました。
【ラクゆる介護10のポイント】
①在宅医療…「親が家で暮らせる」ことを最優先。不安から治療・入院を急がない
②家族の介護…介護保険サービスを活用し、家族の介護は「50点」でいい
③食事…食事は配食サービスでもいい。塩分・糖質・カロリーは気にしすぎない
④移動…歩きたい人は自由にさせる。転倒を必要以上に恐れない
⑤排泄…トイレやおむつは、介護する人が「夜に眠れる」方法を考える
⑥認知症…認知症が出てきたときは、「否定」をせず、「話を合わせる」
⑦経管栄養…口から食べられなくなったときの選択肢を知っておく
⑧延命治療…苦しいだけの延命治療、無用な救急搬送は、できるだけ避ける
⑨看取りの方針…看取りの方針で意見が割れたら、「本人の希望」に戻る
⑩看取りの実際…「臨終に立ち会わなければいけない」という思い込みを捨てる
本記事では、ポイント④、⑤を詳述します。
「危ないから歩かせない」という気遣いの弊害
ラクゆる介護のポイント④【移動】
歩きたい人は自由にさせる。転倒を必要以上に恐れない
高齢者の足腰が衰えて歩行が不安定になってくると、ご家族は転びそうで危ないと冷や冷やされるようです。
転倒して頭を打つとか、骨折をしたらまたたいへんだから、ということで、ときには在宅医に「動き回って、事故が起こらないようにしてほしい」と要望される方もいます。
しかし、転倒が怖いからと高齢者をベッドや車いすから動かないようにさせるのは、実は「身体拘束」にあたります。
病院や一部の施設では、高齢者が動き回ってチューブを抜いたりしないようベルトやミトンでベッドの柵に体を縛りつける、といったことがまだ行われますが、それらは身体拘束であり、介護保険施設では禁止されています。
ほかにも、ベッドの周囲すべてを柵で囲み自分で降りられないようにする、車いすから立ち上がれないように腰ベルトや車いすテーブルをつける、立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する、といったことも、広い意味では身体拘束にあたります。つまり身体拘束とは「高齢者や患者さんの行動を制限するすべてのこと」を指します。
身体拘束がなぜよくないのかというと、行動の自由を奪う人権侵害ということもありますが、体を自由に動かせないと筋力低下や関節の拘縮などが起こりやすくなるからです。また食欲や心肺機能も落ちてしまい、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったり、床ずれができやすくなります。
さらに精神面でも気力が落ちるだけでなく、認知機能の低下やせん妄(急に暴れる、幻覚が現れるなどの一時的な意識障害)が増えるなど、悪影響が少なくないのです。私は歩く力が残っていて歩きたい人には、自由に歩いてもらうほうがいいと思います。そのほうが足腰の筋力も、認知機能もよく保たれます。
「転倒・転落などの事故を防ぐ」環境づくりが大事
ご家族にできることは、転倒・転落などの事故を防ぐために、環境を整えることです。トイレや廊下などのよく移動する場所に手すりを設置する、足元にダンボール箱など余計なものを置かない、足をひっかけやすい段差やマットなどをなくす、すべりにくい室内履きを身に付けるようにする、などです。
よく動き回ってベッドからの転落が心配な人は、ベッドではなく布団にしたほうが安心です。介護用ベッドでも床の高さを変えられるものがありますが、そういうタイプならば就寝中は超低床にしておけば、転落事故の予防になります。また本人が望むときは、転倒防止のためにリハビリに取り組むのもいいと思います。
そして環境を整えた後は、「もし転んでしまったら、それはそれでしかたがない」と腹をくくることです。
実際、高齢の方々はよく転んでいます。転んで大腿骨を骨折したり、しりもちをついて脊椎の圧迫骨折をしたりしています。高齢者には“よくあること”なので、転んだからといって、親御さんを責めたり叱ったりしないであげてください。