自分のことを「お客様」だと思い込む建て主
一級建築士である筆者は、お客様のことを「建て主」と呼んでいます。建て主とは、建築工事における注文者のことです。
建築工事請負約款には、「注文者と請負者は互いに協力して契約の目的物を完成させる」と明記されています。ですが、注文者の多くは家づくりを一生に一度の大きな買い物と考えて、自分のことを「お客様」と思い込みます。確かに、数千万円ものお金を払うのですから当然の意識だと思います。しかし実はこの意識が、建て主にとっても非常にマイナスに作用します。
自分のことをお客様と勘違いした建て主は、「サービスを受ける」という意識がはたらいてしまい、建て主がやるべきことを見失い、建築業者を困らせることがあるからです。
建築工事の注文者は、お客様ではなく「責任者」
建築工事における注文者は、「お客様」ではなく「建て主」であるとともに「責任者」です。「建築主」の氏名を建築現場に表示しなければならないと、建築基準法にも定められています。それほど大きな責任を負っているのです。
こうした事情を踏まえて、家づくりを成功させるには、建て主と建築業者が信頼関係を結ぶことが大切ですが、信頼関係は一方的に生まれるのではなく、建て主と建築業者のそれぞれが自分の役割を果たすことで生まれます。
建て主が自分の役割を忘れて相手の役割に口をはさむようなことがあれば信頼関係は崩れ、トラブルに発展することもあります。しかし、初めて家づくりを行う建て主でも自分の役割をきちんと果たせば、家づくりは必ず成功します。
建て主の「必要以上の現場介入」はトラブルのもと
建築知識の専門的な学習──。建て主が起こしやすい間違いの一つです。知識を学んだ建て主の中には、さまざまな断熱工法を比較し、評論家のように建築業者と交渉する方がいます。