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7月21日に欧州連合(EU)の首脳会議で7,500億ユーロ(約92兆円)の欧州復興基金案が合意された。新型コロナウイルスによる経済的打撃が大きかったイタリアやスペインなどへの救済といった側面が注目されがちだが、重要なのはこの資金がユーロ共同債の発行によって調達されることであり、欧州市場にとってゲーム・チェンジャーとなりうる「歴史的偉業」であるということだ。
「財政共通化」へ一歩前進
EUは単一通貨ユーロを導入し、金融政策も欧州中央銀行(ECB)に統合されているが、財政については共通化されていない。そのため、EU加盟国の一部が放漫財政に走る「モラル・ハザード(倫理の欠如)」が発生しやすい脆弱性を有していた。しかし、今回の欧州復興基金の合意によって、(一時的とはいえ)加盟国ではなく欧州委員会が大規模なユーロ共同債を発行することになったため、「財政共通化」へ向けて一歩前進したことが評価される。
ユーロ共同債の最大のメリットは低い資金調達コストだ。格付けはAAA~AAで発行される可能性が指摘されており、格付けが低いイタリアやスペインが自前で資金を調達するよりも調達コストを低く抑えることができる。実際、イタリアやスペインの対ドイツ10年国債利回り差をみると、欧州復興基金案に関して独仏が合意した5/18あたりから利回り差が低下しており、期待先行でソブリン・リスクを低下させる効果が見られた。ユーロ共同債の発行は、EUが長年抱えていた脆弱性を解消させ、欧州全体のソブリン・リスクを低下させることから、欧州市場にとって「ゲーム・チェンジャー」となりうる。
欧州復興基金は「グリーン・ディール」を担っている
欧州復興基金は新型コロナ危機対策であるのと同時に、気候変動対策である「グリーン・ディール」の役割も担っている。EUは2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げており、「グリーン・ディール」はその目標実現のために導入される。欧州復興基金は全体の30%を気候変動対策に充てる基準が設けられているため、風力や太陽光といった再生可能エネルギー、省エネ、電気自動車関連への投資などが期待できる。
また、2021年から2022年の間に全体の70%を拠出することが義務付けられているため、比較的早期に「グリーン・ディール」が動き出すだろう。独仏合意があった5/18以降、MSCI欧州インフラ株指数はMSCI欧州株指数を上回る場面もあったが、本格的な物色はまだ始まっていない。この欧州復興基金という「歴史的偉業」によって、欧州株を見直す機運が高まりつつある。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『欧州復興基金ゲーム・チェンジャーの予兆』を参照)。
(2020年8月21日)
田中 純平
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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