旅行ができるのは留守番の職員のお陰
食事についても、細かく打ち合わせを行ないます。介護の必要な入居者は、塩分ダメ、糖分ダメ、油分ダメ、青魚ダメなど、ダメな食材も多く、ご当地自慢の料理が食べることができない人もいます。介護職員としては、なんとか食べさせてあげたいと考え、ホテル側と細かい打ち合わせを行ないます。下見の最後は、当日の夜の介護体制についての確認作業です。畳に布団の入居者と、ベッドが必要な入居者。さらには、介護用ベッドでなければならない入居者の割り出しと部屋割りを行ないます。そして、同行しなければならない介護職員の必要最低人数を積算することになります。
一番重要な作業は、同行する職員の人数とメンバーの確定です。忘れてはならないのは、旅行に参加しない入居者も多くいるので、留守番部隊の編成。当然、旅先で万一のことがあっては困るので、万全の態勢で介護フォーメーションを考えます。その結果、多くの介護職員が同行することになります。
しかし、老人ホームには、重度者を中心に多くの入居者が残り、いつもと変わらない日常があります。その入居者のことも考えなくてはなりません。介護職員の能力を考慮に入れ、旅行から戻ってきてからの日常生活での勤務体制の立て直しも計算に入れて、職員のやり繰りをすることになります。旅行中の介護職員は長い休憩は取れません。つまり、ほぼ休憩なしの状態で、1泊2日の日程をこなさなければなりません。だから、日程は1泊2日が限界ということになります。
さらに、旅行から戻ってきた介護職員は、旅行時の休憩をまとめて取るため、順次休みに入ります。いくら仕事のためとはいえ、労働基準法に違反させることはできないので、厳格に休みを取ります。したがって、完全に介護職員が老人ホームに戻ってくるまでに、戻ってから通常のフォーメーションになるには1週間から10日程度はかかってしまうのです。
少し整理してみましょう。まず、下見費用がかかります。ホテル側との食事の試食をはじめ、さまざまな雑務に費用がかさみます。当然、下見をした介護職員らの日当も旅行代金に充当されます。次に観光バスの手配ですが、1台のバスには定員の半分以下しか乗ることはできません。2人がけのシートに一人の入居者が陣取り、介護職員も同乗するからです。さらに、おむつ交換用の車両を1台用意することになります。これらもすべて費用に充当されます。
一番大きな費用は同行する介護職員の日当です。当然の話ですが、深夜帯には深夜割増が付きます。介護職員は全員、各部屋と廊下、必要があれば階段などにも配置され、一晩中寝ないで番をします。当然排泄介助の必要な入居者は同じ部屋に集め、ベッドで寝ているので、ホームと同じ要領で排泄介助を行ないます。
これらすべての費用を旅行参加者の頭数で割った金額が、一人当たりの旅行費用ということになります。前述の通り、旅行代理店に頼んだ場合は、この金額に代理店の手数料が乗りますので、さらに高くなります。