薬物、お酒、ギャンブル…。いつの時代も人々を悩ます「依存症」「こころの病」の問題。医療法人社団榎会理事長である榎本稔氏は書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎MC)にて、デイナイトケア(終日クリニックでリハビリをすること)の重要性を説いています。

「無理だよ、おれたち病気なんだから」患者の願いは…

■ボクらをパリに連れてって!

 

それは、デイナイトクリニックに通う若い患者さん2人の、こんなやりとりから始まりました。

 

「パリか……いいなあ。行ってみたいなぁ」

「無理だよ、おれたち病気なんだから」

「先生、ボクらをパリに連れてってよ!」

 

外国の風景写真集を広げながら、なんのきなしに話していたのだと思いますが、私は考え込んでしまいました。

 

“彼らにパリを連れて行ってあげることは、出来ないだろうか?”

 

薬をきちんと服用すれば、症状はコントロールできます。費用は参加者負担になりますが、朝から晩までデイナイトケアにいて、食事(昼食と夕食)も無料提供される彼らはあまりお金を使わない生活をしており、そこそこの貯金を持っているのです。

 

いまや毎年1500万人を超える人たちが、海外旅行を楽しむ時代です。こころの病があるからといって、行ってはいけない理由はありません。

 

では、なにが問題か? 精神科のクリニックが「患者たちを海外旅行に連れて行きたい」と言っても、引き受けてくれる旅行会社がなかなかないだろうことは容易に想像がつきました。

 

団体となると航空会社にも「安全確保のため」などの理由で搭乗を断られるかもしれません。それでも日頃から、「こころの病をもっているからといって閉じ籠もっていてはいけない」と言っている私としては、彼らが最初から「無理なんだ」とあきらめてしまっているのが残念でなりませんでした。

 

「彼らをパリに連れて行ってやることはできないだろうか?」

 

ある日の会議でこう提案すると、スタッフはあっけにとられていました。精神科のクリニックが患者を連れて海外旅行へ行くなど、聞いたことがありません。

 

案の定、否定的な意見が大半をしめましたが、「なにが実現できない原因か」と問うてもこれといって具体的な答えは出てきません。なぜかというと、スタッフにも海外旅行の経験豊富な者がいなかったからです。

 

さすがに私もいきなりパリに連れて行くのは不安になり、まずは手近な香港に行ってみようということになりました。旅行代理店を探し、なんとか航空券とホテルを手配してくれるところは見つかりました。

 

ところが、本当に大変だったのはここからでした。

次ページ「大変だ!」本人たちはニコニコしているものの…
ヒューマンファーストのこころの治療

ヒューマンファーストのこころの治療

榎本 稔

幻冬舎MC

こころの病を抱える人が生きるためには、「デイナイトケア」の治療しかない! 従来のこころの病は隔離病棟での治療が一般的であった。 本書で紹介するのは、「デイナイトケア」というこれまでにない、まったく新しい治療法であ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録