「きっぱり断ちきれた」を信じると悲劇が訪れる
デイナイトケアに参加すると毎朝定時に外出することになりますし、昼と夕には栄養バランスのとれた食事も出ます。せっかくクリニックにきてもイスに座ったまま「ぼーっ」としている人もいるのですが、まずはそれでもいいのです。
医師や看護師や精神保健福祉士がかわるがわるやってきては声をかけ、ちょっとした会話をかわす。そうしたあたりまえの社会性を取り戻すところから、スタートする人もいます。
午前中は、おもに自分の依存について学びます。なぜお酒や薬物がいけないのか、なぜ自分は依存してしまったか、それによって自分の人生や周囲がどうなってしまったのかを、自分自身で考えるのです。
最初はどの患者さんも「医師や家族にいわれたから」といった理由でしぶしぶ通ってきています。ですが、本人が心から「ここで回復したい」という意志をもって取り組まなければ、挫折してしまうのは目に見えています。
また、しばらく通うと「きっぱり断ちきれた」と立派なことをいうのですが、こころの底ではまだ揺れ動いているので額面どおりには受け取れません。そもそも依存症という病気は、そう簡単に回復できるものではないのです。本人のやる気を大切にしながらも、冷静に見守っていかなくてはなりません。
さらに進むと、本心から「依存症とたたかわなければ」と思えるレベルに達します。だんだんと意志の力で自制できるようにもなってくるのですが、本人も気づかないところでたね火はくすぶり続けています。そして、ストレスがたまったりショッキングな出来事があると、ついまた手を出して炎が燃え上がってしまいます。
そこを超えて、なおもやめ続けることができると、ようやく葛藤を整理してしっかりとした心構えがもてるようになります。自分からほかの依存者にプログラムに参加する大切さを説いたり、困難をのりこえたりしたことで人間的に成長して社会に復帰できる人もいます。ここまでくるのに、はやくても数年はかかります。