いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

母親の認知症を認めない長女

夫婦で入居していた妻のCさんの話です。ご主人は元官僚。インターネットでググれば、たくさんの個人情報が出てくるような著名人でした。しかし、入居後1年でご主人は亡くなってしまい、専業主婦だった彼女が一人で入居していました。

 

Cさんは認知症を患っていましたが、身元引受人である長女は母親の認知症を認めようとはしませんでした。主治医とのムンテラ(病気についての説明)でも、認知症ではなく年相応のボケであると主張し続け、取り合おうとしません。挙句の果てに、認知症ではないので認知症改善薬の投与も不要だと言って、医師の指示を拒絶し、主治医との関係も微妙でした。

 

そうこうしている間に、Cさんの他の入居者への迷惑行為が目立つようになってきました。「他の入居者の部屋のベッドに潜り込んで寝ていた」とか、「夜中に部屋に入ってきて安心して眠れない」とか、「裸で廊下をうろうろしている」とか……。介護職員もCさんをマークしていますが、当然すべてを未然に防ぐことは不可能です。娘さんには、問題行動が起こるたびに、具体的な行為を報告し、専門医の治療を受けるべきだと助言をしていたのですが、そのつど「みんなで母を認知症にしようとしている」と言って、ヒステリックになってしまいます。

 

身元引受人である長女は母親の認知症を認めようとしなかった。(※写真はイメージです/PIXTA)
身元引受人である長女は母親の認知症を認めようとしなかった。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そんなある日、面会に来ていた娘さんより「母の洋服ダンスの中に、汚れた下着が何枚も入っているのはどういうことなのか?」という叱責があり、今後、そのようなことはないように注意してほしいというクレームがありました。

 

老人ホームの場合、自立の入居者の排泄管理は、原則自己管理です。また、排泄介助が必要な入居者には、適宜「排泄の声かけ」や「排泄支援」をするのですが、Cさんの場合は娘さんの希望で「排泄は自立している」「自分でできる」ということだったので排泄管理はしていませんでした。今まで、何度も娘さんに対し「お母さまは尿意がないので、衣類をよく汚してしまう。せめて夜だけでも『リハビリパンツ(パンツ式の紙おむつ)』にしたほうがよいのでは?」という提案をしていましたが、答えはいつも「NO」でした。

 

タンスの中に汚れた下着を隠している理由は明白でした。排泄が上手くいかないCさんは、よく下着を汚してしまうのですが、それが娘さんにバレるとひどく怒られるので、それを隠すためにタンスの奥に隠してしまっていたのです。もちろん、隠しているという事実は、すでに居室整備を担当している介護職員から報告が上げられており、この事実をどう娘さんに伝えようかと考えていた矢先に起きた出来事でした。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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