芥川賞、直木賞を凌駕する本屋大賞の価値
出版業界のメインイベントといえば文学賞である。出版社や新聞社などが社名を冠した賞を設けているが、認知度や販促効果を考えるとやはり二つの賞になる。
芸術性を重視した純文学作品を対象とする「芥川龍之介賞(芥川賞)」と、娯楽性を重視した大衆小説に贈られる「直木三十五賞(直木賞)」だ。どちらも1935年、文藝春秋社社長の菊池寛が創設した文学賞で、年2回(7月、1月)の選考結果発表はその日のうちにニュースとなって茶の間に届く。
ところが今日、話題性においても売り上げにおいても、2大文学賞を凌駕しようかという勢いの賞がある。2004年の創設、今年で17回を迎えた「本屋大賞」(年1回、4月発表)である。
「芥川賞・直木賞はたしかに歴史のある文学賞です。ただ、作家の先生方が選んだ本で、多くの一般読者が読んで面白いとは限らない。一方、本屋大賞を選ぶのは大の本好きで書店員になった私たち、つまり読者感覚に近い存在。年々それが浸透してきたと思います。売れ行きだってもう全然違いますから」と、ある書店員は明かす。
調べてみた。過去5年間の本屋大賞の5作品は、すべて年間ベストセラー(日販調べ)の総合ランキング20位以内に入っていた。2015年の『鹿の王』(上橋菜穂子著)は12位、2016年の『羊と鋼の森』(宮下奈都著)は7位、2017年『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著)3位、2018年『かがみの孤城』(辻村深月著)・13位、2019年『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ著)10位だ。
この間の芥川賞・直木賞は計24作品。しかし、年間20位以内にランクインしたのは3作品に留まる。2015年上期に総合1位となった芥川賞の『火花』(又吉直樹著)、2016年上期芥川賞『コンビニ人間』(村田沙耶香著)の8位、そして本屋大賞とダブル受賞となった2016年下期直木賞の『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著)の3位である。
書店員の言うとおりだ。文学賞には、今後の文壇をリードする有能な作家の発掘と同時に、低迷する書籍売上げへのカンフル剤としての役割が求められる。後者、すなわち書籍売上げへの販促効果においては、明らかに本屋大賞に軍配が上がるのだ。
本屋大賞受賞作の面白さは、歴代全17作品のうち11作品が映画化されていることからも分かる。たとえば『博士の愛した数式』(小川洋子著/第1回)、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(リリー・フランキー著/第3回)、『舟を編む』(三浦しをん著/第9回)など、映画界にも優れた脚本素材を提供し続けている。
大賞を逸したベスト10まで枠を広げれば、映画やテレビドラマ化、舞台にかかった作品は枚挙にいとまがない。出版業界のみならず日本のエンターテインメントの供給源として、本屋大賞は年々その存在価値を高めているといえるだろう。