『古事記』『日本書記』…令和に日本の古典が読まれる理由

新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

『万葉集』に続いて『徒然草』ブームが到来?

くまざわ書店千葉ペリエ本店は、購入前の本を売り場に隣接したカフェに持ち込んで読めるのが人気で、千葉市内では最大級の書店だ。先日、店内を物色していて、あるコーナーの前で自然に足が止まった。

 

古事記や日本書紀の現代語訳がPOPで飾られ、高さをもって陳列されていた。これが、日本文学・古典の定位置である店の奥・隅なら分かるが、入口に近い好位置に目につくように展開されている。

 

しかも、そのすぐ隣には枕草子・徒然草・方丈記・源氏物語といった、古典文学のビッグネーム関連本がズラリ勢揃い。フェア開催中なのかもしれないが、ここまで店が力を入れるのはブームが来ているのかも、と考えたのである。

 

『子どもたちの徒然草』(PHPエディターズ・グループ)など、多くの『徒然草』関連本が出版されている。
『子どもたちの徒然草』(PHPエディターズ・グループ)など、多くの『徒然草』関連本が出版されている。

思えば1年半前、令和の出版業界の幕開けを飾ったのは万葉集ブームだった。新元号の典拠について、菅官房長官が『万葉集巻五』の冒頭にあると明かすや否や、万葉集関連本がバカ売れした。それにあやかって『古今和歌集』や『竹取物語』なども続々とリリースされ、令和元年の出版界はちょっとした古典ブームに沸いた。

 

まだその流れが続いているのだろうか。情報として知っているのは、角田光代氏による『源氏物語下巻』(河出書房新社)の新訳が今年2月に刊行されたことくらいだ。

 

自動検索機に「日本の古典」と打ちこんだところ、相当数がヒットした。過去の遺物、あるいは百科事典や辞書と同等の認識すらなかった私には予想外だった。『万葉集』『古事記』『古今和歌集』『枕草子』『方丈記』などの現代語訳や、新しい解釈を加えた入門書・関連書が、複数の出版社から競うように出版されていたのだ。

 

なかでも一番人気は吉田兼好の『徒然草』で、なんと49件もヒット。『子どもたちの徒然草』(PHPエディターズ・グループ)、『仕事は「徒然草」でうまくいく』(技術評論社)、『平成経済徒然草』(日本経済新聞社)、『批評文学としての『枕草子』『徒然草』』(NHK出版)など関連本が多く、去年から今年にかけてだけで10冊も上梓されている。出版界にはちょっとした徒然草ブームが起きていたようだ。

 

真相を知るべく、日本文学の主だった古典文学作品の現代語訳・全訳注を多数手がけている講談社学術文庫編集部に問い合わせてみた。

 

「改元時の万葉集ブームに引きずられたわけでもなく、日本の古典文学を現代語で読みたいというニーズは昔からずっとありました。ドカンと売れることはないけれど、小爆発くらいなら何度も起こしています。学習参考書の副読本的使い方もなくはないが、読者層はやはり中高年。リタイアしてたっぷりできた老後の時間を、学生時代は難解で読み進めなかった古典をじっくり読んでみたいという人が多いのでは」

フリーライター

1952年、神奈川県生まれ。明治大学卒。企業広報誌等の編集を経てフリーライターとして独立。著書に『改築上手―「心地いい家」のヒント52―』(新潮新書)、『二十年後―くらしの未来図―』(新潮新書)ほか。

著者紹介

連載「本」は死んだか?――今どきの出版事情

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