兄がクーデター…父と数名の取締役を退任させ、代表に
そんな状況で落としどころを探っていた最中に、T氏のほうが強引な手段に打って出ました。T氏は自らの立場を生かし、O氏とそれに追従する数名の取締役を退任させ、自分が代表者となったのです。
それに衝撃を受けたのは、K氏です。T氏に問い詰めましたが、結局その意図を理解することはできず、新体制への不信感をぬぐえぬまま仕事を続けていました。
経営者となったT氏のサポートという、父が自分に託した役割をこなすため、K氏は日々奔走しました。強引なやり方に対する社内の反感を抑えるため、憎まれ役を買って出たりもしました。
しかし、そもそも経営者タイプも職種タイプもまったく違っており、性格も真逆の兄弟です。業務方針についての意見が合わないことは日常茶飯事であり、ぶつかるたびに結局はT氏が自分の意見を押し通すため、K氏は次第に徒労感を覚え、いつしか業務報告以外で口をきくことがないような間柄になってしまいました。
そして結局K氏は、A社を退職。その半年後に、A社が手掛ける領域のうちのひとつで事業を立ち上げました。こうして兄弟は競合となり、K氏の事業が成長してA社の売り上げに影響を与えるようになった段階で、ついに交流は途絶えてしまいました。
<トラブルの原因>
「兄弟仲よく会社を続けてほしい」と思う親心は、確かによく理解できます。しかしだからといって、兄弟の相性がよくないのに無理にひとつの事業を引き継がせようとすると、トラブルが起きてきます。兄弟仲が悪くなった結果、それぞれが事業を行い、競合として争う例は、有名企業でも後を絶ちません。このケースでも兄弟の相性を見誤り、ひとつの会社の枠に入れ込もうとしたことが、裏目に出てしまったといえます。
また、O氏は息子であるT氏の性格や考え方の傾向も把握できておらず、無理に自分の路線を継承させようとしました。そこでの衝突がクーデターの引き金となりましたから、もし回避できていれば違った結末になっていたはずです。
「船頭多くして船山へ登る」ということわざもある通り、企業の中核を担う人物同士で信頼関係が保てず、それぞれが自分の派閥をつくってしまうような場合、指揮官が複数いる状況となり、結局は統制をとることができません。今回のケースにおいて、仮にクーデターが起きなかったとしても、弟のK氏はいつか兄のやり方についていけなくなり、会社を出てしまったことでしょう。