カルロス・ゴーンの破滅はここから始まっていた
為替が一定であったり円安になったりしていれば、金利差分の利益が毎月のように入ってきますが、円高に振れたらさあ大変。レバレッジも効いているので目も当てられない悲惨な事態となります。
当時日産自動車のCEOだったカルロス・ゴーン氏も似たような為替デリバティブ取引を行い、リーマンショック時の急激な円高によって巨額の含み損を抱えました。その損失を日産に付け替えた結果、ゴーン氏の破滅へとつながったのです。
日本経済全体への影響は甚大となりました。米国経済への依存が強い輸出産業から傷口が広がり、結果的に日本経済の大規模な景気後退を招いてしまいます。
日経平均に目を向けると、リーマンショック直後はそれほど下落はせず、10月に入ってからも1万1000円台の水準でしたが、半ばを過ぎたあたりから毎日1000円の幅を変動するような、大きな揺らぎを伴うようになってきます。リーマンショック直前に当たる2008年9月12日の日経平均は1万2214円でしたが、10月28日には6994円まで大きく下落しています。
リーマンショックから世界経済を救う手立てとなったのは、投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる偉大な投資家、ウォーレン・バフェット氏による出資です。米金融大手のゴールドマン・サックスに優先株で50億ドル、金融事業で大打撃を受けていた総合電機メーカーのゼネラル・エレクトリックにも30億ドルを出資しています。その後両社の事業は好転、関連企業もじわじわと業績を回復させていきました。
ウォーレン・バフェット氏が投じた一石によって、水面の波が広がっていくように、世界経済が立て直されていったのです。暴落時にこそリスクを取るという、氏の投資手法が発揮された出来事でした。
■歪み対策
BNPパリバの解約凍結、そしてリーマン・ブラザーズの破綻。一つの金融商品から生じた歪みが、まさかこれほどまで甚大な影響を世界に与えるとは、およそ誰にも想像することはできなかったでしょう。
証券会社に勤めている私さえ、ここまで大きな問題になるとは思いませんでした。サブプライムローンがどんなものかさえ知らない証券会社の営業員もいたかもしれません。自社商品販売のノルマ達成に必死なため、よその金融商品など勉強しているどころではありませんでしたから。
2003年ごろを起点として日経平均は上昇傾向にあり、証券業界全体に浮かれている面が強くありました。油断していたといっていいでしょう。
上がり相場にあっても、「いつか何かのきっかけで下がるのではないか」と冷静な視点を持っておくことが大事だということを、リーマンショックから改めて学ばされました。もしそのような視点を持っていたなら、日々の取引に加えて、リスクヘッジのためのベア型ファンド(下落相場で利益が出るよう組まれた金融商品)や空売りを行っていたことでしょう。
世界のどこかで、いつ急に歪みが発生してもおかしくないのです。歪みの原因は、金融商品への信用不安かもしれませんし、大きな金融機関の破綻かもしれません。もしくは環境問題かもしれませんし、新型のウイルスかもしれませんし、一国のトップの交代や新しい政策によるものかもしれません。歪みは誰も想像できない思わぬところから生じることもあります。
歪みの兆候をすばやくキャッチするのは、日々の情報収集にほかなりません。「このくらいの出来事じゃ、相場が大きく動くことはないだろう」という根拠のない軽率な判断は禁物です。更新されていくニュースにきちんと目を通し、歪みの広がりと規模を正しく把握し、相場が大きく変動することを想定した取引をして、リスクを軽減していくようにしましょう。