長男以外を納得させる「ある隠し玉」があった!
地代収入に大きな差が出てしまったのは確かですが、〝落としどころ〟としては非常に妥当な分割案でした。
さらにダメ押しで長男以外の3人が納得するような「ある隠し玉」を用意しました。長男に「この分割案で納得してくれたら、父の葬祭費用をすべて負担する」と他のきょうだいに宣言するように助言したのです。
葬祭費用というのは、いろいろなところで費用が発生します。主に葬儀社への支払いから、お布施、読経料、戒名料、会葬礼状、香典返しなどがあります。葬式以降も、初七日、四十九日、一回忌、三回忌などの法要があり、その都度諸費用がかかります。地元で知られる名家などであれば、それらの額は必然的に高額にならざるを得ませんから、負担する金額やその出所について、実はきょうだい全員が気にかかっていたことでした。
さらには、何らかの費用がかかるたびに相談して4人で4分の1ずつ負担していくというのも手間ですし、たとえ親の葬祭であっても全員が同じ価値観を持っているとも限りません。平等に意見が言い合える余地を残すとかえって諍(いさか)いの元を残してしまうこともあるのです。そこで遺産の取り分の多い長男が葬祭費用全般について負担するということにすれば、他の3人の金銭的、精神的負担が軽減されます。
その隠し玉が決め手となったこともあって、最終的に皆が納得する形で話し合いを収めることができました。
■相続に対する思いを支えた遺言書と信頼関係
相続はAさんと出会ってから8年後に発生しました。Aさんが亡くなる3年くらい前から相続人となる子どもたちと土地の分割方法を考えられていたこともあって、相続は特に問題が起こることなく無事に終了しました。
分割がうまくいったのは、早期に分割案を提示したこと以外にも理由があります。
まずは遺言書です。信託銀行で作っていた遺言書を撤回し、新しい遺言書にしていたことも円満な相続に一役買っていたことでしょう。撤回前の遺言書では、遺産について法定相続分で分割するとしか書かれていませんでしたが、そのままではAさんの遺志は伝わりづらかったはずです。
新しく作った遺言書では、2点内容を追加しました。