「自分の親が要介護になったら、実家を売却して介護費用にあてよう」と考えている人は少なくありません。しかし、高齢化が進展するにつれ、認知症による資産凍結トラブルが続出しています。認知症対策としては従来より「成年後見制度」などがありますが万全とは言えず、結局「親の介護費用を子世代が立替えている」というケースも珍しくありません。高額な介護費用を立替え続け、資産が減り続けた末に相続税がのしかかってくるのです。※本連載は、OAG税理士法人取締役の奥田周年氏監修の『親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7』(ビジネス教育出版社、『暮らしとおかね』編集部)より一部を抜粋・編集したものです。

売却後、契約無効になることも…認知症と不動産の売買

高齢の相続人が自宅を相続した場合、一人での生活が心配だと、有料老人ホームへの入所を希望するケースは多いのです。しかし認知症が発覚した場合、自宅売却は簡単ではありません。高額の介護施設費用は、どう工面したらいいのでしょうか。

 

 

『【マンガを見る】実家を売却し、介護施設の費用にあてようと思ったら…』は、亡きご主人名義の自宅や土地を相続して暮らしていたお母さんの話です。伴侶を失うと急に認知症が進むことが多いと言われます。例にもれず、【マンガ】の女性の場合、進行が速かったケースです。

 

近所に住む息子さんは自分の家族の暮らしもあるので忙しく、お母さんの認知症への対応が十分にできませんでした。さらに、実家の不動産売却ができないという難問に突き当たってしまいました。

 

この例のように、親の介護施設や老人ホームの入居一時金や費用を捻出するために親の自宅を売却しようと考える家族は少なくありません。そんなときに、親が認知症を患ってしまうと、大きな壁となってしまいます。

 

認知症は判断能力が低下した状態ですが、「判断能力」とは、自分の行いがどんな法律的な結果を生むかを判断する力のこと。判断能力が低下してしまった場合は、不動産の売買契約のように重要な契約の締結は行えないのが決まりです。もしなんとか売却できたとしても後日、売り主が認知症だったことが発覚して、契約が無効になるケースもあります。

 

認知症になると、資産管理に大きな壁が生じる
認知症になると、資産管理に大きな壁が生じる

「後見人」がいても売却できるとは限らない

実際、不動産売買では、売り主と買い主、不動産仲介会社担当者、司法書士、そのほか金融機関担当者など数人の立会人がいる場合があります。このとき、売り主の身体的能力に問題がある場合、本人の意思があれば、委任状を準備したうえで、子供が代理人となって売却の手続きを進めることができます。売主が病気で寝たきりでも、面談が行われ、意思確認を行い進めることが可能です。

 

 

一方、売り主が認知症の場合、あるいは面談をしたときに、その言動などから、「本人の意思がはっきり確認できない」と判断された場合は、本人の家族に後見人をつけるよう勧められることになります。

 

【マンガ】で不動産会社の担当者に勧められた「後見人」は、本人の代理として本人の財産を守ったり、生活環境を整えたりする支援をしてくれる存在です。ただし後見人の役割は本人の利益になることを行うことであるため、本人名義の不動産を売ることを認めるかどうか不明です。本人に、入居一時金を払う財産がないなどの事実がわかれば、自宅を売却して入居一時金にあてたり、生活費や医療費として使ったりできるでしょう。そうでなければ、売却することに合意しないかもしれません。

 

一方、本人の居住用の不動産は、また本人が住むかもしれない場所であり、思い入れもあるかもしれないという面でも判断は難しく、最終的には家庭裁判所の判断にゆだねることになります。もっとも後見人についてはデメリットもあるので慎重な検討が必要です。

介護費用を立替えるときは、「債務控除が可能な形」で

介護施設の一例として、有料老人ホームを検討した場合、入居時に「入居一時金(前払い金)」を支払い、月々居住費や管理費、食費、光熱費などを合算した「月額費用」を支払います。入居一時金は0円から300万円など幅があり、0円の場合は月々の費用が高めに設定され、高額の場合は月額が無料だったり、安く設定されていたりします。ですので、入居するときは支払いのハードルが低くても、長期にわたって払い続けられるかを考える必要があります。

 

自宅で介護をする場合、住宅改造や介護用ベッドの購入などでかかる費用は、平均69万円となっています(出典:平成30年生命保険に関する全国実態調査)。

 

[図表]介護にはこんなに費用がかかる

 

月々の費用の平均値は、在宅の場合が4万6000円、施設の場合は11万8000円(同出典)と、施設のほうが2倍近く高くなっています。年間にすると在宅では、55万2000円、施設では141万6000円となります。

 

介護期間は4~10年未満が全体の28.3%で、平均4年7ヵ月となっています。介護期間を5年間として計算してみると、在宅介護5年間で276万円、708万円となります。

 

万が一のときのこうした費用をどうするのか、理想は親が元気なうちに話し合っておくことです。しかし日々の忙しさや、万が一のことを話し合う機会を持てないまま介護に突入してしまうケースも少なくありません。

 

もし介護費用を家族が立て替えた場合は、領収書をしっかり保存し、詳細を説明できるようにしておきましょう。遺産分割のときに債務控除として、相続財産の価額から差し引くことができます。

 

 

【監修】奥田 周年
OAG税理士法人 取締役
税理士、行政書士


【協力】IFA法人 GAIA 成年後見制度研究チーム


【編集】ビジネス教育出版社 『暮らしとおかね』編集部

 

親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

監修:奥田 周年
執筆協力:IFA法人 GAIA
編集:『暮らしとおかね』編集部

ビジネス教育出版社

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