近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。※本記事は株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

夫に余命宣告、40代の子は生活が不安定…対策は?

70代のY野さんが相談に見えました。Y野さんの夫は80歳を過ぎてから難病を発症し、入退院を繰り返しています。病院ではすでに治療はし尽くしたということで、現在は自宅で生活をしており、おおよその余命宣告をされたということです。

 

 

Y野さんは夫の余命からいよいよ相続対策が必要だと思い、筆者のもとにひとりで相談に来られました。

 

相続関係者

被相続人:夫
相続人 :3人(妻〈相談者〉・長男・長女)

 

●夫の相続税「4320万円」の試算結果

 

夫は親から相続した財産を有価証券にしており、自分で購入した賃貸不動産もあります。持参された固定資産税の納付書や株の明細書をもとに財産評価をすると、不動産4物件で1億円、動産が1億6000万円となり、合わせて2億6000万円。子どもが2人あり、相続人は3人ですので、相続税は4320万円と試算されました。一般的には、配偶者の税額軽減を適用すれば、納税は2150万円となります。

 

●妻である相談者にも多額の財産あり

 

Y野さんご自身にも財産があるということで、合わせて確認しました。Y野さんの財産は動産6000万円、法人への貸付金が4000万円。合わせて1億円の財産です。夫の賃貸マンション3物件と法人名義1物件があり、賃貸事業を行う法人を設立していて、現在はY野さんが代表者になっています。法人で管理する物件の修繕費用を、夫名義の物件についても法人が負担し、Y野さんが貸し付けてきたのでした。

有価証券を解約、不動産対策で相続税を3分の1以下に

●顧問税理士は贈与以外の方法をアドバイスしてもらえず…

 

夫の確定申告と法人の決算は、事業をスタートした20年前からずっと同じ税理士事務所に任せてきていましたが、修繕費を法人の負担にすることも税理士のアドバイスで、貸付金についても同様です。何年も決算書に載ったままになっていますが、アドバイスはありません。相続対策については、現金贈与をしてはといわれたことがあり、2人の子どもに310万円を贈与した程度で、それ以上のアドバイスはありませんでした。

 

●「収入が不安定な子ども」にどんな財産を渡すべきか?

 

Y野さんのお話からわかったことは、2人の子どもは40代で、ともに独身です。長男は自宅に同居し、長女は近くで賃貸住まいをしています。2人は年齢が近く、仲もあまりよくないこと、2人とも収入が安定しないなど、いろいろ不安があるようです。

 

そこでアドバイスしたのは、夫の相続税を減らす節税対策をすること、Y野さんの貸付金を解消して節税対策をすることです。また、賃貸物件を増やして子どもたちに分けられる形を作り、遺言書も作成するなど、ほかにも複数の提案をしました。

 

夫の体調に不安があるY野さんには、手続き等の迅速なスケジュールを提示することで安堵していただくことができました。有価証券を解約し、不動産対策をすれば相続税は3分の1以下になりますので、本当に安心して頂けるはずです。

 

 相続実務士の視点 

 

余命宣告されてからでも、相続対策としてできることはあります。また今回の場合、現金贈与だけでは対策として不十分ですから、資産構成などを考えつつ、取れる対策を取っていくことが大切です。

 

もちろん財産を残すことは大切ですが、手をつけずに持っていればいいということではありません。今回のY野さんの場合は、そのままでは多額の相続税が課税されてしまうため、 形を変えて「家賃の入る財産」にすることで評価を下げ、価値は残すようにしました。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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